
前回までの記事で、粗利は
「単価 × 回転率 − 原価」
という構造で決まることを解説しました。
今回は、その中でも経営者が最も悩みやすい
「単価」、つまり値決め・値上げに踏み込みます。
「値上げをしたら顧客が離れるのではないか」
「今のご時世で値上げなんて無理だ」
そう感じている経営者は多いですが、実は
値決めの仕方そのものが間違っているケースがほとんどです。
なぜ中小企業は値上げができないのか
中小企業が値上げに踏み切れない理由は、主に次の3つです。
- 価格の根拠を説明できない
- 顧客との力関係で弱い立場にある
- 値上げ=悪いこと、という思い込みがある
特に多いのが、
「競合がこの価格だから」「長年この価格だから」
という理由だけで価格が決まっているケースです。
この状態では、値上げは確かに怖くなります。
なぜなら、自分でもその価格に自信がないからです。
値決めの出発点は「原価」と「粗利」
正しい値決めは、感覚ではなく構造から始まります。
最低限、次の3点は把握しておく必要があります。
- 1件(1個・1時間)あたりの原価
- その仕事で必要な粗利はいくらか
- その粗利で固定費・利益をまかなえているか
つまり、
「この価格で売らなければ、会社が成り立たない」ライン
を明確にすることが出発点です。
これが分かっていない状態での値引きや価格維持は、
気づかないうちに会社の体力を削っていきます。
値上げは「一律」でやらない
値上げというと、
「すべての商品・サービスを一斉に上げる」
イメージを持たれがちですが、これは失敗しやすい方法です。
おすすめなのは、次の切り口で整理することです。
- 利益が出ているもの/出ていないもの
- 手間がかかるもの/かからないもの
- 代替がききにくいもの/ききやすいもの
この整理を行うと、
**「値上げすべき対象」と「慎重に扱う対象」**が自然と分かれます。
特に、
手間がかかるのに粗利が低い仕事は、
値上げの最優先候補です。
顧客が離れにくい値上げの考え方
値上げで顧客が離れるかどうかは、
金額そのものよりも伝え方と理由に大きく左右されます。
顧客が納得しやすい説明には、共通点があります。
- 原材料費・人件費など、客観的なコスト上昇
- 品質維持・サービス継続のためであること
- 今後も価値を提供し続ける意思
重要なのは、
「値上げさせてください」ではなく、
「この価格でなければ、この価値を維持できません」
というスタンスです。
値上げ=顧客切りではない
値上げを行うと、
一定数の顧客が離れる可能性はあります。
しかし、ここで重要なのは、
その顧客が本当に“利益を生む顧客”だったのか
という視点です。
値上げによって、
- 常に値引きを要求する顧客
- 手間がかかる割に利益が出ない顧客
が離れる一方で、
価値を理解してくれる顧客との関係は、むしろ安定します。
結果として、
売上は多少下がっても、粗利は改善する
というケースは珍しくありません。
よくある失敗例
値決め・値上げでよく見られる失敗には、次のようなものがあります。
- 原価を把握せずに価格を据え置く
- 競合価格だけを基準にする
- 全商品を一律に値上げする
- 値上げ後の数字を検証しない
これらはすべて、
値決めを戦略ではなく作業として扱っていることが原因です。
まとめ:値決めは「経営判断」である
値決め・値上げは、営業の問題ではありません。
経営判断そのものです。
単価をどう設定するかで、
会社の利益体質、働き方、将来の投資余力まで決まります。
怖さの正体は、「分からないこと」です。
原価と粗利を把握し、構造を理解すれば、
値決めは決して難しいものではありません。


