
前回の記事では、収益改善の出発点が「売上」ではなく粗利であることを解説しました。
今回はその続きとして、粗利がどのような構造で決まっているのかを掘り下げていきます。
粗利は、感覚や偶然で決まるものではありません。
明確な構造があり、その構造を理解すれば、改善の打ち手も自然と見えてきます。
粗利は「3つの要素」で決まる
粗利は、次の3要素の組み合わせで決まります。
- 単価(いくらで売っているか)
- 回転率(どれだけ売れているか)
- 原価(いくらかかっているか)
式で表すと、次のようになります。
粗利 =(単価 × 回転率)− 原価
多くの中小企業では、この3要素を同時に見ていません。
原価だけを気にしていたり、売上だけを追っていたりと、部分的な視点で判断してしまいがちです。
収益改善の第一歩は、この3要素をセットで捉えることです。
単価:感覚ではなく「根拠」で決める
単価は、粗利に最も直接的な影響を与える要素です。
しかし現実には、「昔からこの価格」「競合がこの価格だから」という理由で決められているケースが少なくありません。
問題なのは、
その価格で、どれだけの粗利が残るのかを把握していないことです。
単価を考える際に最低限確認すべきなのは、
- 1件あたりの原価はいくらか
- その単価で、粗利はいくら残るのか
- その粗利で、固定費を回収できているか
という点です。
値上げは怖いものと思われがちですが、
根拠のある単価設定は、むしろ経営を安定させます。
回転率:「量」と「時間」の視点を持つ
回転率とは、一定期間にどれだけの数量・案件をこなしているか、という概念です。
製造業であれば生産量、サービス業であれば対応件数や稼働率が該当します。
回転率を考えるうえで重要なのは、
「忙しいかどうか」ではなく、時間あたり・人あたりでどれだけ価値を生んでいるかです。
例えば、
- 同じ単価でも、作業時間が短くなれば回転率は上がる
- 同じ人数でも、ムダな待ち時間が減れば回転率は改善する
回転率の改善は、必ずしも売上拡大を意味しません。
効率の改善=粗利の改善につながるのです。
原価:下げる前に「把握する」
原価というと、真っ先に「削減」を考えがちですが、
実は多くの企業では、原価が正確に把握されていません。
特に、
- 人件費がどこまで原価なのか分からない
- 業務ごとの工数が見えていない
- 商品・サービス別の原価を見ていない
といった状態では、原価改善はできません。
重要なのは、
原価を下げる前に、原価を見える化することです。
原価が見えるようになると、
- 利益の出ない仕事
- 思った以上にコストがかかっている工程
が明確になります。
3要素は「同時に」考える
単価・回転率・原価は、それぞれ単独で改善するものではありません。
3つは相互に影響し合っています。
例えば、
- 単価を上げれば、回転率が下がる可能性がある
- 原価を下げすぎると、品質が下がり単価に影響する
- 回転率を上げようとして人を増やすと、原価が上がる
だからこそ、
どの要素を、どの順番で動かすかが重要になります。
中小企業が最初に見るべきポイント
多くの中小企業に共通するおすすめの順番は、次のとおりです。
- 商品・サービス別に粗利を把握する
- 原価と工数を見える化する
- 単価が適正かを検証する
この順番を踏むことで、
「無理に売上を伸ばさなくても利益が残る構造」を作ることができます。
よくある失敗例
粗利改善が進まない企業には、次のような失敗が見られます。
- 原価削減だけに目が向く
- 単価を上げることを最初から諦めている
- 忙しさを成果だと勘違いしている
- 全体構造を見ず、部分最適で動いている
これらはすべて、
粗利構造を理解していないことが原因です。
まとめ:構造を理解すれば改善は難しくない
粗利改善は、特別なテクニックではありません。
単価・回転率・原価という3要素の構造を理解し、
どこに手を入れるべきかを見極めるだけです。
構造が見えれば、改善は自然と進みます。

