「売上は伸びているのに、なぜかお金が残らない」
多くの中小企業経営者が、同じ悩みを抱えています。広告を出し、営業を強化し、売上は前年を上回っている。それにもかかわらず、資金繰りは楽にならず、忙しさだけが増えていく。この状態の原因は、ほぼ例外なく粗利(売上総利益)にあります

収益改善を考えるうえで、最初に見直すべきは売上ではありません。
粗利です。


なぜ売上が伸びても利益が残らないのか

中小企業では「売上=成果」「売上アップ=経営改善」と考えられがちです。しかし、売上はあくまで通過点であり、利益を保証するものではありません。

売上を増やすために値引きをする、広告費を増やす、人を増やす。こうした施策は短期的に売上を押し上げますが、同時に原価や固定費も増加します。その結果、売上は増えているのに、利益率は低下するという事態が起こります。

特に原価構造や工数を把握しないまま売上拡大を目指すと、「忙しい赤字」「儲からない成長」に陥りやすくなります。


粗利とは何か(売上総利益の本当の意味)

粗利とは、売上から直接的な原価を差し引いた利益です。

粗利 = 売上 − 売上原価

製造業であれば材料費や外注費、サービス業であれば人件費や業務コストの一部が原価に該当します。
粗利は、会社が人件費・家賃・広告費・設備投資などをまかなうための「原資」です。

この粗利が不足していれば、いくら売上があっても経営は安定しません。逆に言えば、粗利が改善すれば、売上が大きく伸びなくても利益は残るのです。


粗利は「単価 × 回転率 − 原価」で決まる

粗利は偶然生まれるものではありません。構造で決まります。

  • 単価(いくらで売っているか)
  • 回転率(どれだけの頻度・量で売れているか)
  • 原価(いくらかかっているか)

この3要素の掛け算と引き算の結果が、粗利です。
多くの企業では、このうち原価しか見ていない、あるいは単価を感覚で決めているケースが非常に多く見られます。

重要なのは、3要素を同時に俯瞰し、「どこを動かせば最も効果が出るか」を見極めることです。


中小企業がまず手を付けるべき3つの改善ポイント

粗利改善に取り組む際、いきなり大きな改革を行う必要はありません。まずは次の3点を整理することが重要です。

① 単価:値決めを感覚から根拠へ

多くの中小企業では、「昔からこの価格」「競合がこのくらいだから」という理由で価格が決められています。しかし、原価が上がっている現在、このやり方は通用しません。
最低限、この価格でどれだけの粗利が残るのかを数値で把握する必要があります。

② 原価:下げる前に“見える化”

原価削減というと、仕入先交渉やコストカットを思い浮かべがちですが、最初にやるべきは「原価の把握」です。
どの業務に、どれだけのコストや工数がかかっているのかを整理するだけでも、改善余地は明確になります。

③ やってはいけない改善:売上至上主義

売上だけを追いかける改善は、粗利を悪化させるリスクがあります。値引き、過剰な広告、人員増加は、粗利改善の視点がなければ逆効果になり得ます。


粗利改善が進まない会社の共通点

粗利改善がうまくいかない会社には、いくつかの共通点があります。

  • 数字を現場と結びつけていない
  • 商品・サービス別の粗利を見ていない
  • 忙しさ=成果だと勘違いしている
  • 値上げを「怖いもの」として避けている

これらはすべて、粗利構造を理解していないことが原因です。


まとめ:収益改善は「売上アップの前」にやる

収益改善の出発点は、売上ではなく粗利です。
粗利を理解し、構造を把握し、改善ポイントを見極めることで、初めて売上拡大が意味を持ちます。

逆に言えば、粗利を無視した売上アップは、経営を不安定にする可能性すらあります。

まずは自社の粗利構造を見直すこと。
それが、すべての収益改善の第一歩です。