― 自動旋盤の稼働率向上を実現した「工程起点」の投資判断 ―

人手不足が慢性化する中小製造業において、「設備を入れれば何とかなる」という考え方は、もはや通用しなくなっています。
中小企業省力化投資補助金(一般型)で採択されている製造業の事例を見ると、共通しているのは設備そのものではなく、工程の捉え方です。

本記事では、金属加工業においてオーダーメイド設備を導入し、自動旋盤の稼働率向上と省力化を同時に実現した事例をもとに、採択につながった考え方を整理します。


1.導入前の課題|設備はあるのに「回らない現場」

この事業者は、複数台の自動旋盤を保有しており、一見すると設備投資は十分に行われている状態でした。
しかし実際の現場では、次のような問題を抱えていました。

  • 段取り替えや材料供給に人手がかかる
  • 作業者が常時張り付く必要があり、省人化が進まない
  • 設備能力に対して稼働率が低い
  • 人手不足により、受注を増やしたくても増やせない

つまり、設備はあるが、工程全体としては非効率な状態でした。

このようなケースは、多くの製造業に共通しています。
問題は「旋盤が足りない」のではなく、前後工程を含めた設計がなされていないことにあります。


2.省力化の着眼点|機械ではなく「人の動き」に注目

この事業者が最初に整理したのは、
「どの作業で人が拘束されているのか」
という点でした。

分析の結果、ボトルネックは以下にあることが分かりました。

  • 材料供給・排出のたびに人が対応している
  • 加工そのものより、付帯作業に時間を取られている
  • 作業者1人あたりが担当できる機械台数に限界がある

ここで重要なのは、
旋盤そのものの性能ではなく、人の関与が多い工程を省くこと
に省力化の軸を置いた点です。


3.導入した投資内容|オーダーメイド設備という選択

この事業者が選択したのは、既製品の追加導入ではなく、
自社の加工工程に合わせたオーダーメイド設備の導入でした。

具体的には、

  • 自動旋盤に連動する材料供給装置
  • 加工条件や品種に応じた専用設計
  • 作業者の介在を最小限に抑える構成

といった形で、自社工程に最適化した設備構成を採用しています。

ここが一般型で評価されやすいポイントです。

  • なぜ既製品では足りないのか
  • なぜこの構成でなければならないのか

を、工程と作業内容から説明できている点が、採択につながっています。


4.省力化の効果|「人が減った」では終わらせない

この投資によって得られた効果は、単なる省人化ではありません。

  • 作業者1人あたりが担当できる機械台数が増加
  • 段取りや材料供給にかかる時間が大幅に削減
  • 設備稼働率が向上し、生産量が安定
  • 現場の突発対応が減り、管理負荷が軽減

特に重要なのは、
浮いた人手を別の工程や品質管理、段取り改善に回せるようになった
という点です。

省力化を「人を減らす話」で終わらせず、
現場全体の生産性を底上げする投資になっています。


5.なぜこの事例は採択されたのか

この事例が評価された理由は、設備の先進性ではありません。
ポイントは次の3点です。

① 課題が工程レベルで明確だった

人手不足という抽象的な話ではなく、
「どの工程で、なぜ人が必要なのか」が整理されています。

② 投資と効果の因果関係が分かりやすい

設備を入れることで、

  • 誰の
  • どの作業が
  • どう減るのか
    が説明できています。

③ 経営への影響まで描けている

稼働率向上 → 生産能力向上 → 受注対応力強化
という流れが、無理なくつながっています。


6.同じ製造業の事業者が学ぶべきポイント

この事例から、製造業の事業者が学ぶべきポイントは明確です。

  • 「設備が足りない」と感じたら、まず工程を疑う
  • 機械ではなく、人の動きを起点に省力化を考える
  • 省力化後の現場の使い方まで描く

一般型では、
設備投資=経営改善の一部として説明できるか
が問われます。

単なる設備更新ではなく、
「この投資で現場がどう変わるのか」を言語化することが、採択への近道です。