
中小企業新事業進出補助金の採択事例を見ていくと、製造業は非常に存在感のある業種です。
ただし、評価されているのは「まったく新しい技術」ではなく、既存技術を別の用途・市場へ転用する新事業である点が大きな特徴です。
本記事では、製造業がどのような新事業で採択されているのか、その代表的なパターンと評価のポイントを整理します。
■なぜ製造業の「用途転換型新事業」は評価されやすいのか
製造業の新事業が評価されやすい理由は、次の3点に集約されます。
① 技術の実績がすでにある
製造業は、既存事業で培ってきた加工技術・品質管理・量産ノウハウを持っています。
そのため、新事業であっても技術面の実現可能性が高いと判断されやすくなります。
② 新市場性を説明しやすい
同じ技術でも、
- 業界を変える
- 用途を変える
- 顧客層を変える
ことで、「新市場への進出」を明確に示すことができます。
③ 設備投資と成果の因果関係が明確
新設備導入 → 新製品・新用途対応 → 売上創出
という流れが描きやすく、補助金の趣旨と合致します。
■パターン①:産業用途から別業界への技術転用
採択事例で多く見られるのが、特定業界向け技術を別分野へ展開するケースです。
例としては、
- 工業部品向けの加工技術を医療・福祉分野へ転用
- 建設資材向けの製造技術をインテリア・住宅設備分野へ展開
- 産業機械向け部品を食品・衛生関連用途へ応用
いずれも、
「技術そのものは既存だが、用途と顧客が新しい」
という点が新事業性として評価されています。
■パターン②:BtoB専業からBtoC・小ロット市場への進出
製造業の採択事例では、BtoB中心だった企業がBtoCや小ロット市場へ進出するケースも目立ちます。
- 業務用部品を一般消費者向け製品に展開
- OEM専業から自社ブランド製品の開発
- 大口取引中心から、多品種少量対応への転換
これにより、
- 価格決定権の獲得
- 利益率の改善
- 事業ポートフォリオの分散
といった効果が期待できる新事業として評価されます。
■パターン③:加工工程の高度化による高付加価値化
単なる用途転換だけでなく、
加工工程そのものを高度化する新事業も採択されています。
例としては、
- 高精度加工設備の導入による新規受注対応
- 表面処理・仕上げ工程の内製化
- 品質・耐久性を高めた高付加価値製品の開発
これらは、
「従来は対応できなかった要求仕様に応える新事業」
として評価されやすい傾向があります。
■パターン④:自社ノウハウを製品・サービスとして外販
製造現場で蓄積されたノウハウを、
製品やサービスとして切り出す新事業も見られます。
- 専用治具・工具の製品化
- 生産効率化ノウハウを反映した装置開発
- 品質管理・検査に関する技術提供
これらは、
「現場課題から生まれた実践的な新事業」として、実現性の高さが評価されます。
■採択された製造業に共通するポイント
① 技術説明より「市場説明」が重視されている
技術の高度さよりも、
どの市場で、誰に、どのような価値を提供するかが丁寧に説明されています。
② 新事業売上の構成比が明確
最終年度に新事業が売上の一定割合(10%以上)を占めるなど、
数値で成長を示しています。
③ 設備投資の必然性が説明できている
「なぜこの設備が必要か」「なぜ今なのか」が論理的に整理されています。
■製造業にとっての中小企業新事業進出補助金の意味
製造業は、既存取引への依存度が高くなりがちです。
そのため、
- 取引先依存のリスク
- 価格競争
- 市場縮小
といった課題を抱えやすい構造にあります。
中小企業新事業進出補助金は、
**既存技術を活かしながら新たな市場へ踏み出すための“橋渡し”**となる制度です。
■まとめ:製造業の新事業は「技術」より「使い道」
採択事例を総合すると、製造業の新事業で評価されているのは、
- 技術の新しさではなく、用途の新しさ
- 開発力より、市場設計力
- 設備導入そのものより、事業としての必然性
という点です。
既存技術を見直し、「別の市場で使えないか」という視点を持つことが、
中小企業新事業進出補助金での採択に近づく第一歩と言えるでしょう。


