
中小企業新事業進出補助金の採択結果を俯瞰すると、東京都や大阪府といった大都市圏だけでなく、地方企業の採択事例が数多く見られることが分かります。
地方は市場規模が小さいというイメージを持たれがちですが、実際には「地域資源」を起点にした新事業が高く評価され、採択につながっています。
本記事では、地方企業がどのように地域資源を新事業へ昇華させ、採択を勝ち取っているのか、その代表的なパターンを紹介します。
■なぜ地方の新事業が評価されやすいのか
地方企業の新事業が採択されやすい背景には、次のような理由があります。
① 地域性そのものが差別化になる
地方には、農産物、自然、文化、技術、人材など、その地域ならではの資源があります。
これらは他地域の企業が簡単に真似できないため、新市場性・独自性の説明がしやすいという強みになります。
② 新市場を「地域外」に設定しやすい
地方企業は、従来は地域内で事業を完結させているケースが多く、
新事業では「地域外(全国・都市部・海外)」を市場に設定するだけで、市場の新規性を明確に示すことができます。
③ 地域課題の解決が事業テーマになりやすい
人口減少、担い手不足、資源の未活用といった地域課題は、
新事業の“背景ストーリー”として非常に説得力があります。
■パターン①:地域農産物・水産物の高付加価値化
最も多く見られるのが、地域の一次産品を加工して価値を高める事業です。
代表的な事例では、
- 地元果物を冷凍・加工し、スイーツや加工食品として販売
- 水産物を加工し、業務用・家庭用商品として全国展開
- 規格外品を活用したサステナブル商品開発
単なる原料販売ではなく、加工・ブランド化・販路拡大を組み合わせることで、新事業として評価されています。
■パターン②:観光資源を活かした体験・サービス事業
地方ならではの観光資源を活用した新事業も、採択が目立ちます。
- 地域文化・伝統技術を体験型サービスとして商品化
- 観光施設と連携した宿泊・体験プログラム
- 地域産品を組み込んだ観光向けサービス
これらの事業では、「モノを売る」だけでなく、
体験価値を提供するサービスとして新市場性が評価されています。
■パターン③:地域産業の技術を別分野へ展開
地方には、長年培われてきた独自の技術やノウハウを持つ企業が多く存在します。
採択事例では、
- 伝統工芸の技術をインテリア・建材分野へ応用
- 地場製造業の加工技術を医療・産業用途へ展開
- 林業・木工技術を新素材・新製品に転用
といった、技術の用途転換型の新事業が多く見られます。
■パターン④:地域内連携による新事業創出
地方企業の新事業では、複数の地域事業者が連携するモデルも特徴的です。
- 生産者×加工業×販売業の連携
- 観光業×製造業×IT事業者の協業
- 自治体・支援機関と連携した事業展開
単独では難しい事業も、連携によって実現可能性が高まり、
「地域全体への波及効果」が評価されるケースがあります。
■地方の採択事例に共通するポイント
① 地域資源を“事業の核”として明確化している
単なる「地元だから使う」ではなく、
なぜその地域資源が価値を生むのかを丁寧に説明しています。
② 市場は地域外を見据えている
採択された事業の多くは、
全国・都市部・特定ニッチ市場など、地域外を主戦場に設定しています。
③ 数字で成長を描けている
地方事業であっても、
売上・利益・構成比の変化を具体的な数値で示しています。
■地方企業にとっての新事業進出補助金の意味
地方企業は、立地条件や市場規模の制約を受けやすい一方で、
他社にはない資源や強みを持っています。
中小企業新事業進出補助金は、
- 地域資源を全国市場につなぐ
- 地方から新しい価値を発信する
- 地域課題をビジネスで解決する
こうした挑戦を後押しする制度と言えます。
■まとめ:地方だからこそ評価される新事業がある
地方の採択事例を整理すると、
- 地域資源は強力な差別化要素
- 市場を外に向けることで新規性が生まれる
- 連携型・課題解決型事業が評価されやすい
という点が明確です。
地方企業にとって、
中小企業新事業進出補助金は「不利を覆すための制度」ではなく、
強みを最大化するための制度と言えるでしょう。


