『はじめの一歩を踏み出そう』最終回:マーケティングとシステムの戦略を学ぶ

世界で700万部以上を売り上げたベストセラー『はじめの一歩を踏み出そう(原題:The E-Myth Revisited)』のエッセンスを全7回にわたって解説してきた本シリーズ。いよいよ今回は最終回です。

前回は、事業発展プログラムの中核である「組織戦略」「マネジメント戦略」「人材戦略」について取り上げました。今回は、その仕上げともいえる「マーケティング戦略」「システム戦略」に焦点を当てます。


ステップ⑥:マーケティング戦略 ― 顧客の声に耳を傾ける

マーケティングの基本は「顧客理解」です。ところが、多くの企業がこの基本を軽視してしまい、自己満足型の商品開発や広告投資を繰り返しています。

「マーケティングは顧客に始まり、顧客に終わる」
── マイケル・E・ガーバー

顧客の“無意識”が購買を決める

顧客が商品を購入する理由は、機能や価格だけではありません。店舗の雰囲気、接客態度、商品陳列、Webサイトの使いやすさなど、すべての接点が購買に影響します。

これを私たちは「感覚パッケージ」と呼びます。

図解:感覚パッケージの構成

顧客接点 = 感覚パッケージ
 └ 視覚(店舗の清潔感、広告のデザイン)
 └ 聴覚(BGMや接客のトーン)
 └ 嗅覚(香り)
 └ 触覚(商品パッケージ)
 └ 味覚(試食・試飲体験)

高級ホテルやブランドショップは、これらの要素を緻密に設計しています。中小企業であっても、これを意識することで大きな差別化が可能になります。

顧客との“約束”を明文化する

マーケティングで最も重要な問いは、「私たちは顧客に何を約束しているか?」です。

  • 確実な納期?
  • 安心のサポート体制?
  • ワクワクする体験?

この“約束”は、広告コピーのように明文化されることもあれば、自然と伝わっている場合もあります。いずれにせよ、顧客があなたと取引を続ける理由は、この約束に対する信頼にあります。


ステップ⑦:システム戦略 ― 経営を仕組みで回す

いくら戦略が素晴らしくても、それを実行できる「仕組み」がなければ、事業はスケールしません。ガーバー氏は、経営とは「仕組み化の連続」であると説いています。

「システムとは、相互に作用するモノ・行動・アイデア・情報の集合体である」
── マイケル・E・ガーバー

会社=人間の体

会社の仕組みは、人間の体のようなものです。各部門(営業、経理、製造など)が“臓器”であり、どこかに不調があれば他部門にも影響します。

図解:システムの相互作用イメージ

[経理] ←→ [購買] ←→ [在庫] ←→ [営業]
↑ ↓
[顧客対応] ←→ [マネジメント]

一部の不具合が全体のパフォーマンスに影響を及ぼすため、どの部分の改善が最も効果的かを見極める必要があります。

システム化のメリット

  1. 業務の標準化:誰がやっても同じ品質を実現
  2. 属人化の防止:人に依存しない経営へ
  3. 業務の可視化:課題を発見しやすくなる
  4. 従業員の創造力を引き出す:仕組みが考える余裕を生む

「システムは社員の可能性を制限するものではなく、解き放つもの」
── ガーバー氏の思想の核心です。


まとめ:経営の本質は「仕組み」にある

全7ステップからなる「事業発展プログラム」は、経営の本質を体系的に示しています。最終的なゴールは、組織を“仕組み”で動かすことです。

これまでのステップを振り返ると以下のようになります:

事業発展プログラム7つのステップ(総まとめ)

  1. 事業の究極の目標:経営者自身の人生の目的を定義
  2. 戦略的目標:その目的に基づく事業ビジョンの設定
  3. 組織戦略:ビジョン達成に必要な理想の組織図を描く
  4. マネジメント戦略:顧客に再現性のある価値を届ける仕組み化
  5. 人材戦略:社員が自らやる気になる「ゲーム化」の設計
  6. マーケティング戦略:顧客理解と感覚パッケージによる差別化
  7. システム戦略:すべてを統合する「仕組み経営」の実現

編集後記:ガーバー氏の思想が今も響く理由

本書の初版は1985年、改訂版も1995年と、すでに30年以上が経過しています。それでも今なお読まれ続けるのは、書かれている内容が“流行”ではなく、“原理原則”だからです。

多くの経営書は、著者の成功体験か、理論研究に基づいています。成功体験は再現が難しく、理論研究は中小企業には当てはまりにくい面があります。

一方で、ガーバー氏の提言は「現場から生まれ、仕組みで磨かれた知恵」。だからこそ、業種・業態を問わず多くの企業で応用されてきました。

すでに読んだことのある方も、ぜひ今のご自身の経営課題に照らして、もう一度読み返してみてはいかがでしょうか。