
はじめに
「人件費を上げたいけれど、利益が足りない」――
多くの中小建設業がこの悩みに直面しています。
しかし、賃上げの原資は“売上の増加”ではなく、「粗利(=付加価値)」の改善から生まれます。
本記事では、現場から始める「粗利率アップの実践策」を解説します。
1. 粗利率改善が経営の生命線
粗利とは「売上 − 直接原価(材料費・労務費・外注費)」であり、会社の利益・投資・賃上げの源泉です。
| 売上 | 原価 | 粗利 | 粗利率 |
|---|---|---|---|
| 1,000万円 | 800万円 | 200万円 | 20% |
| 1,000万円 | 750万円 | 250万円 | 25% |
粗利率を5%改善できれば、同じ売上でも賃上げ原資を確保できます。
つまり、「売上を増やすよりも、ムダを減らす方が早い」のです。
2. 現場で起こる「粗利低下の5大要因」
| 要因 | 内容 | 対策の方向性 |
|---|---|---|
| 材料ロス | 端材・過剰発注・再手配 | 見積時の歩留り精査・在庫管理 |
| 手戻り | 設計ミス・施工不良 | チェックリスト・事前打合せ徹底 |
| 工期延長 | 人員不足・段取りミス | 工程表の見える化・多能工育成 |
| 外注依存 | 自社加工・職人不足 | 自社内製比率の見直し |
| 見積誤差 | 単価・工数の見落とし | 原価データの更新・標準歩掛整備 |
これらの1つ1つを潰すだけで、粗利率は確実に改善します。
3. 現場で実践できる「粗利改善の3ステップ」
Step1:現場ごとの原価を“見える化”
工事が終わってから「赤字だった」では遅すぎます。
現場ごとにリアルタイムで原価を追う仕組みを作りましょう。
💡 実践例:
・現場日報で1日ごとの人工数を記録
・材料発注を現場単位で集計
・完了時に「実行予算」と比較
→ 「どの現場が儲かっているか」が即座に分かる経営管理へ。
Step2:粗利シミュレーションを定例化
工事ごとの見積段階で、粗利シミュレーションを行います。
| 工事名 | 売上見込 | 原価見込 | 粗利額 | 粗利率 |
|---|---|---|---|---|
| A工事 | 500万円 | 380万円 | 120万円 | 24% |
| B工事 | 300万円 | 260万円 | 40万円 | 13% ❌ |
| C工事 | 700万円 | 510万円 | 190万円 | 27% ✅ |
→ 粗利率が目標以下(例:20%未満)の案件は、受注前に見直す勇気が必要です。
Step3:社内共有と評価制度に反映
粗利改善は現場任せではなく、会社全体の文化として根付かせることが大切です。
📊 仕組み例:
・月次で「現場別粗利報告会」を開催
・粗利率上位の現場リーダーを表彰
・改善提案を評価制度に反映
→ “粗利を見る文化”が根付けば、現場全員が「利益を意識して動く」ようになります。
図解:粗利改善が賃上げ原資を生む流れ
原価のムダ削減
↓
粗利率アップ
↓
利益増加
↓
賃上げ・再投資
↓
人材定着・競争力向上
4. デジタル活用で粗利管理を効率化
アナログな帳票管理では、原価把握が遅れがちです。
クラウド型の原価・工事管理ツールを導入すれば、粗利計算を自動化できます。
| システム活用効果 | 内容 |
|---|---|
| データ一元管理 | 見積・実行予算・発注・請求を一括管理 |
| 損益の即時把握 | 現場ごとに粗利率をリアルタイム確認 |
| 補助金活用 | IT導入補助金で費用の最大2/3補助 |
→ “手間を減らして利益を増やす”ためのIT投資が、粗利改善の近道です。
5. 「改善提案」が利益をつくる文化を育てる
社長だけが粗利を考えるのではなく、社員全員が「利益を守る行動」を取ることが重要です。
💬 例:
・「この工程を省けば30分短縮できます」
・「材料のカット順を変えれば端材が減ります」
・「協力会社をまとめ発注すれば運搬費が下がります」
小さな改善の積み重ねが、大きな粗利改善と賃上げ原資を生み出します。
チェックリスト:粗利改善の取り組み度(6項目)
- 現場別に原価と粗利をリアルタイムで把握しているか?
- 見積段階で粗利率のシミュレーションを行っているか?
- 原価データや単価表を定期更新しているか?
- 現場の改善提案を仕組み化・表彰しているか?
- ITツールを活用して原価管理を効率化しているか?
- 粗利改善を賃上げ・再投資に回すルールを定めているか?
まとめ
賃上げは“支出”ではなく、“粗利を増やす投資の結果”です。
粗利率を1〜2%改善できれば、経営は確実に安定します。
ムダの削減・見積精度の向上・現場意識の変革――
この3つを同時に進めることで、**「儲かる現場」から「人が育つ会社」**へと進化できます。

