
企業や個人事業主の会計処理において、もっとも信頼性の高い記帳方法のひとつが「複式簿記」です。帳簿をつけるのは面倒に感じるかもしれませんが、正しく活用すれば、経営状態の可視化や節税にもつながります。
この記事では、複式簿記の仕組みやメリット・デメリット、単式簿記との違い、具体的な記帳例までわかりやすく解説します。
【図解】単式簿記と複式簿記の違い
比較項目 | 単式簿記 | 複式簿記 |
---|---|---|
記帳内容 | 現金出納の記録のみ | 取引の原因と結果を両面記録 |
情報量 | 限定的(現金の動きのみ) | 財務状況を網羅的に把握可能 |
申告要件 | 青色申告控除は最大10万円 | 青色申告控除は最大65万円 |
向いている人 | 家計簿感覚で管理したい個人 | 財務管理を重視する事業者 |
複式簿記とは?
複式簿記は、取引を「借方(左)」と「貸方(右)」の両面から記録する方法です。たとえば「商品を売って現金を受け取る」という1つの取引において、現金が増えたこと(借方)と売上が発生したこと(貸方)を同時に記録します。
この仕組みにより、資産・負債・収益・費用といった会計上の要素が網羅され、財務諸表の作成や経営分析が容易になります。
複式簿記が選ばれる3つのメリット
1. 青色申告特別控除が受けられる
個人事業主が青色申告をする際、複式簿記で帳簿を作成し、電子申告すれば最大65万円の控除が受けられます(紙提出は最大55万円)。これは節税効果が大きく、会計処理をきちんと行うモチベーションにもなります。
2. 財務諸表の作成がスムーズ
複式簿記では、日々の仕訳帳の記録を集計することで、貸借対照表や損益計算書といった決算書類を効率的に作成できます。これにより、金融機関への提出や経営会議での説明もスムーズに進められます。
3. 経営分析に役立つ
売上や費用の記録だけでなく、「どこからお金が入り、どこへ出ていくのか」まで正確に把握できます。資金繰りに不安がある場合も、複式簿記で管理していれば早期発見・対応が可能です。
デメリットも把握しておこう
● 記帳の手間がかかる
単式簿記と比較すると、取引の仕訳がやや複雑で、日々の記帳作業に手間がかかります。特に仕訳帳・総勘定元帳・試算表など、複数の帳簿管理が必要です。
● 簿記の知識が求められる
仕訳ルールや勘定科目の扱いを理解していないと、正確な記帳ができません。とはいえ、最近は初心者向けの会計ソフトも多く、知識ゼロでも対応可能になっています。
具体的な記帳例(仕訳例)
たとえば、商品を5万円で現金販売した場合の仕訳は以下の通りです。
コピーする編集する借方:現金 50,000円 | 貸方:売上 50,000円
これは「現金が増えた」こと(資産の増加)と、「売上が立った」こと(収益の発生)を同時に記録しています。これが複式簿記の基本構造です。
複式簿記の主な帳簿:仕訳帳と総勘定元帳
帳簿名 | 役割 |
---|---|
仕訳帳 | 日付順に全取引を記録。帳簿の“元データ”となる |
総勘定元帳 | 勘定科目ごとに取引をまとめた帳簿。資産や負債の残高確認に使用 |
両者を併用することで、取引の全体像と科目別の推移を管理できます。
記帳の効率化に役立つ2つのポイント
1. 基本の簿記知識をおさえる
最低限「資産」「負債」「収益」「費用」「純資産」という5要素と、借方・貸方の仕組みを理解しておけば、実務にもスムーズに応用できます。
2. 会計ソフトの活用
たとえば「freee」や「マネーフォワード クラウド会計」などのクラウド型会計ソフトでは、銀行・クレジットの連携やAIによる自動仕訳が可能です。初心者でも簡単に複式簿記が実践でき、記帳ミスの防止や業務効率化にも貢献します。
まとめ:複式簿記で経営を“見える化”しよう
複式簿記は、多少の知識や手間を必要としますが、それ以上に「信頼性のある財務管理」「青色申告での節税」「経営判断の材料」を得られる強力な会計手法です。
特に、今後事業を大きくしたい方や、金融機関からの信用を高めたい事業者にとっては、早い段階で複式簿記に取り組む価値があります。会計ソフトの力を借りながら、まずは基本の記帳から始めてみましょう。