
はじめに:補助金という「甘い罠」
「補助金が出るなら、この設備を導入してみようか」
経営者の方と向き合う中で、こうした言葉を聞くことは少なくありません。
確かに補助金は、事業投資のハードルを下げてくれる制度です。
しかし一方で、補助金をきっかけに判断を誤り、1年後に後悔するケースも数多く見てきました。
問題は補助金そのものではありません。
補助金を理由に、投資判断の軸がズレてしまうことにあります。
本記事では、補助金というノイズを一度取り払い、
その投資が本当に会社の将来につながるのかを見極めるための
3つの判断の物差しを紹介します。
物差し①:収益の物差し「自腹テスト」
最初の物差しは非常にシンプルです。
もし補助金が一切なかったとしても、自腹でこの投資をしますか?
この問いに即答できない投資は、注意が必要です。
「実質半額」という言葉は、冷静な判断力を奪います。
補助金前提の投資が赤字になりやすい理由は、隠れコストにあります。
設備導入後には、
- 維持費
- 電気代
- 修繕費
- 人件費
といったコストが継続的に発生します。
これらには補助金が出ないため、投資の収益性を過大評価しがちです。
失敗事例
ある製造業では、「補助金で半額になるから」という理由で最新設備を導入しました。
しかし導入後に判明したのは、その設備を十分に稼働させる受注が無かったという現実です。
本来なら全額自己負担では決断しない投資を、
「補助金があるから」という理由で進めた結果、
毎月の返済と固定費が会社の資金を圧迫していきました。
物差し②:リスクの物差し「暗黒の12か月」
2つ目は、資金繰りリスクの物差しです。
補助金は原則として後払いです。
先に全額を支払い、実績報告と審査を経て、ようやく入金されます。
支払いから入金まで、半年から1年以上かかることも珍しくありません。
この期間を、私は「暗黒の12か月」と呼んでいます。
よくあるトラブル
- 設備の納期遅延
- 工事トラブルによる予算超過
- 実績報告の修正による入金遅延
こうした想定外は、ほぼ確実に発生します。
重要なのは、
補助金が入らなくても、1年間経営を続けられるか
を、最悪のシナリオでシミュレーションすることです。
黒字であっても、資金が尽きれば経営は続けられません。
物差し③:運用の物差し「担当者の指名」
最後の物差しは、投資を「資産」に変えられるかどうかを左右するポイントです。
この投資の責任者を、フルネームで言えますか?
答えられない計画は、危険信号です。
典型的な失敗例
- 高額なITツールを導入したが、使いこなせる人材がいなかった
- 新規事業を始めたが、既存業務の片手間で進めて頓挫
- 最新設備を入れたが、現場教育が追いつかなかった
「入れてから考える」「人は後で採用する」という計画は、非常にリスクが高いと言えます。
投資前に、
- 誰が責任を持つのか
- 現場が本当に回るのか
ここまで具体化できているかが、成功と失敗を分けます。
まとめ:補助金に振り回されない投資判断を
投資の成功とは、補助金が採択されることではありません。
投下した資金を回収し、会社に新しい利益の柱を作ることです。
最後に、3つの物差しを整理します。
- 自腹テスト
補助金がなくても決断できる投資か - 暗黒の12か月
入金までの空白期間を耐えられるか - 担当者の指名
責任者のフルネームを即答できるか
補助金は、あくまで「手段」です。
短期的なメリットに惑わされず、5年・10年先を見据えた判断を行うことが、結果的に会社を守ることにつながります。

