
― 投資は「回す力」がある会社にこそ価値が出る ―
前回までの記事で、
- 原価構造の把握
- 工数・サイクルタイム改善
- 在庫回転率の向上
- プロダクトミックス最適化
という製造業の核心改善ポイントを解説してきました。
本最終回では、
設備投資を成功させる判断軸に踏み込みます。
設備投資は、製造業にとって大きな武器である一方、
判断を誤ると資金繰りを圧迫し、
経営を不安定にするリスクがあります。
設備投資は「目的」ではなく「手段」
多くの製造企業で見られる誤解があります。
設備投資=生産性向上
という図式です。
しかし実際には、
- 稼働率が上がらない
- 段取りは改善されていない
- 人件費は変わらない
- 受注が増えるわけではない
という結果に陥るケースも少なくありません。
設備投資は
既存のボトルネックを解消するための手段です。
それを間違えると、
効かない投資になります。
製造業の設備投資が失敗する3つの原因
共通する要因は次のとおりです。
① そもそも需要がない
② ボトルネックが他の工程に移る
③ 投資しても売上・粗利が増えない
特に重要なのは③です。
粗利が増えない設備投資は成功しません。
ROI(投資回収)の本質は“粗利増加額”
ROIの算定は難しくありません。
ROI =(粗利増加額)÷ 投資額
たったこれだけの話です。
ところが、現場では
- 効率は上がったが利益は増えない
- 工数は減ったが価格は据え置き
- 時間は浮いたが仕事は増えない
こうした「効果の見せかけ」が起きがちです。
重要なのは、
浮いた時間をどう使い、粗利増加を実現するか
という視点です。
設備投資の正しい検討フロー(4段階)
次の順番で考えると失敗を防げます。
- 営業・市場
受注増の見込みがあるか
単価改善につながるか - 製造能力
工数削減・生産性向上が期待できるか
段取り削減できるか - 資金
キャッシュフローに無理はないか
補助金活用は適切か - 経営戦略
主力製品強化につながる投資か
特に「④戦略」の視点が欠けると、
無駄な設備が増えます。
設備投資は「生産性 × 粗利」両方に効かせる
次の問いに「はい」と答えられたら、
投資効果が期待できます。
- 単価が上がる(市場価値向上)
- 粗利率が上がる(効率改善)
- 回転率が上がる(稼働率向上)
- 在庫が減る(キャッシュ回復)
いずれも改善しない場合は、
投資の優先度は低いと判断して構いません。
よくある失敗例
設備投資の判断を誤るケースには、次の特徴があります。
- 設備ベンダーの提案をそのまま採用
- 現場の希望を優先しすぎてしまう
- 実際の稼働状況を検証しない
- 数字を追わず“雰囲気評価”になる
成功の鍵は、
投資後の粗利改善効果を検証し続けることです。
まとめ:投資は「回す力」がある会社にこそ価値が出る
設備投資は、
企業の未来のために欠かせない武器ですが、
- 回せる体制
- 粗利改善の視点
- 戦略との一貫性
がなければ成果に結びつきません。
まずは、
- 粗利構造の理解
- 時間の改善(工数管理)
- 在庫とキャッシュの最適化
- 主力製品への集中
これらを整えたうえで投資すれば、
企業の競争力は一気に高まります。
製造業こそ、
選択と集中で利益を伸ばす業界です。


