
― 在庫は「資産」ではなく「経営判断の結果」である ―
前回は、製造業の生産性が
工数とサイクルタイム=時間の使い方で決まることを解説しました。
今回は、その時間と密接に関係する
在庫に焦点を当てます。
在庫は多くの製造業にとって避けられない存在ですが、
同時に利益と資金繰りを最も静かに蝕む要因でもあります。
なぜ在庫が増えるほど経営は苦しくなるのか
在庫が増えると、次のような現象が起こります。
- 倉庫にモノはあるのに、現金が足りない
- 売上は立っているのに、資金繰りが楽にならない
- 値引きや廃棄が増える
これは、在庫が現金を固定化しているからです。
在庫は会計上「資産」に見えますが、
経営の視点では未回収の現金に他なりません。
在庫回転率とは何か
在庫回転率とは、
一定期間に在庫が何回入れ替わったかを示す指標です。
簡単に言えば、
- 回転率が高い:早く売れている
- 回転率が低い:滞留している
ということです。
製造業では、
「在庫を持たないと対応できない」
という事情はありますが、
持ちすぎて良い理由はありません。
在庫が増える3つの典型パターン
製造業で在庫が膨らむ原因は、概ね次の3つです。
① 見込み生産が前提になっている
需要予測が外れると、
一気に滞留在庫が発生します。
特に品種が多いほど、リスクは高まります。
② 段取り・効率を優先しすぎている
「まとめて作った方が効率が良い」
という発想は正しい一方で、
在庫コストを無視すると逆効果になります。
③ 在庫の責任者が曖昧
在庫は、
「誰の判断で」「どれだけ持つか」
が決まっていないと、自然に増えます。
在庫は「生産性」と「値決め」の結果
在庫は単なる倉庫の問題ではありません。
生産性と値決めの結果です。
- サイクルタイムが長い
- 段取り替えが多い
- 小ロットに対応できない
こうした生産性の問題が、
在庫を増やします。
また、
- 在庫を前提にした安売り
- 値引き前提の販売
は、回転率を下げ、
粗利率も悪化させます。
キャッシュサイクルの視点を持つ
在庫問題を本質的に捉えるには、
キャッシュサイクルの視点が不可欠です。
キャッシュサイクルとは、
- 仕入れから
- 製造して
- 販売し
- 回収する
までに、
どれだけの日数・資金が必要か
を見る考え方です。
在庫が長く滞留すると、
このサイクルが伸び、
資金繰りを圧迫します。
在庫回転率を改善するための実践ポイント
在庫回転率改善で、
まず取り組むべきポイントは次の3つです。
① 滞留在庫を分類する
- 売れる在庫
- 条件付きで売れる在庫
- 売れない在庫
を分けるだけでも、
判断が進みます。
② 作り過ぎの原因を特定する
「なぜ作ったのか」
「なぜ売れなかったのか」
を振り返ることで、
再発を防げます。
③ 生産ロットを見直す
効率だけでなく、
在庫コスト込みでの最適ロット
を考えることが重要です。
よくある失敗例
在庫改善でよくある失敗には、
次のようなものがあります。
- 在庫削減を現場任せにする
- 数字を見ずに感覚で減らす
- 在庫を減らすこと自体が目的になる
在庫改善は、
経営判断の結果として行うものです。
まとめ:在庫は経営の縮図である
在庫は、
その会社の生産性、値決め、判断力を
そのまま映し出します。
- 在庫が多い
- 回転が遅い
- 値引きが常態化している
こうした状態は、
収益構造の歪みを示しています。
在庫回転率を改善することは、
単なる倉庫整理ではありません。
収益改善と資金繰り改善を同時に進める最短ルートです。


