
中小企業新事業進出補助金の採択事例を横断的に見ていくと、業種や投資規模が異なっていても、評価されている「新市場性」の作り方には共通点があることが分かります。
重要なのは、奇抜なアイデアや最先端技術ではなく、**既存事業との関係性を踏まえた“納得感のある新しさ”**です。
本記事では、実際の採択事例を踏まえながら、審査で評価されやすい新市場性の作り方を整理します。
■そもそも「新市場性」とは何か
新市場性とは、単に「新しい商品を作ること」ではありません。
採択事例で評価されている新市場性は、次のいずれか、または複数を満たしています。
- 新しい顧客層に向けた事業である
- 既存顧客に対しても、提供価値が明確に変わっている
- これまで自社が参入していなかった市場である
つまり、「誰に」「何を」「どう売るか」が変わっているかが判断基準です。
■パターン①:顧客を変えることで新市場を作る
最も分かりやすい新市場性の作り方が、顧客層の転換です。
採択事例では、
- BtoB専業 → 一般消費者向け
- 業界特化 → 異業種向け
- 地域限定 → 全国・海外
といった形で、顧客の定義を変えることで新市場性を成立させています。
商品や技術が大きく変わっていなくても、
顧客が変われば、審査上は明確な新市場進出として評価されます。
■パターン②:用途・使い方を変える
次に多いのが、同じ技術・製品でも用途を変えるパターンです。
- 工業用途 → 医療・福祉用途
- 業務用 → 家庭用
- 部品 → 完成品・パッケージ商品
このタイプの新市場性は、
「技術は既存だが、市場が新しい」ため、実現可能性が高く評価されます。
■パターン③:売り方・提供方法を変える
商品や顧客が同じでも、売り方を変えることで新市場性を作るケースも多く見られます。
- 単品販売 → サブスクリプション
- スポット取引 → 継続契約
- 製品売切 → サービス・保守付き提供
これは、特に製造業・建設業・設備業で多く、
収益構造そのものを変える新事業として評価されています。
■パターン④:価値の切り出し方を変える
採択事例の中には、
これまで“付随的”だった価値を主役にした新事業もあります。
- 製品そのものではなく、ノウハウを商品化
- 作業結果ではなく、データや分析を提供
- 工程ではなく、成果・保証を売る
このように、
「何を価値として提供しているか」を再定義することで、新市場性が生まれます。
■新市場性が弱くなる典型的な失敗例
一方で、不採択となりやすい計画には、次のような共通点があります。
- 既存商品の延長に見えてしまう
- 顧客・用途・売り方がほぼ変わらない
- 「新しい設備を入れる」ことが目的になっている
設備投資はあくまで手段であり、
市場の変化が見えない計画は評価されません。
■採択事例に共通する整理の仕方
採択されている計画では、ほぼ例外なく次の整理がされています。
- 既存事業の市場・顧客・価値を明確にする
- 新事業で変わる要素(顧客/用途/売り方)を特定
- なぜその変化が必要か(市場背景・課題)を説明
- 設備投資がその変化にどう貢献するかを示す
この流れができていれば、
新市場性の説明は過不足なく伝わります。
■新市場性は「派手さ」ではなく「構造」
採択事例を通して見えてくるのは、
新市場性とは「派手なアイデア」ではなく、事業構造の変化だという点です。
- 誰に売るのか
- 何を価値として提供するのか
- どうやって収益を得るのか
この3点のどれかが明確に変わっていれば、
十分に評価される新市場性になります。
■まとめ:新市場性は設計できる
中小企業新事業進出補助金で評価される新市場性は、
運任せの発想ではなく、論理的に設計できるものです。
- 顧客を変える
- 用途を変える
- 売り方を変える
- 価値の切り出し方を変える
自社の既存事業を分解し、
どこを変えれば「新しい市場」と言えるのかを考えることが、
採択への近道となります。


