前回は、値決め・値上げが「感覚」ではなく、
原価と粗利に基づく経営判断であることを解説しました。

今回は、その土台となる
**原価の「見える化」**について掘り下げます。

多くの中小企業では、原価管理というと
「コスト削減」「仕入れ値の交渉」
といった話に直結しがちですが、実はその前段階で止まっています。

原価が、そもそも見えていない。
これが最大の問題です。


原価管理=削減、ではない

原価管理という言葉に対して、
現場からよく聞かれる反応があります。

  • もう削れるところがない
  • 現場は限界まで頑張っている
  • これ以上コストを下げるのは無理

しかし、実際に中身を見てみると、
**「削減以前に、把握できていない」**ケースがほとんどです。

削減は、最後の手段です。
原価管理の第一歩は、見える化です。


なぜ中小企業では原価が見えにくいのか

原価が見えない理由には、共通した背景があります。

  • 人件費がまとめて販管費になっている
  • 工数(時間)が測られていない
  • 商品・サービス別に集計していない
  • 「だいたいこれくらい」という感覚管理

特にサービス業や受託型ビジネスでは、
人の時間=原価にもかかわらず、
時間が数字として扱われていません。

この状態では、
どの仕事が儲かっているのか、
どの仕事が足を引っ張っているのか、
判断できるはずがありません。


見える化の第一歩は「分ける」こと

原価を見えるようにするために、
最初から精緻な管理を目指す必要はありません。

まずやるべきことは、分けることです。

  • 商品別
  • サービス別
  • 案件別

最低限、この単位で
売上と原価を対応させるだけで、
見える世界は一変します。

「全部まとめて黒字だから問題ない」
という状態は、
実は赤字商品が黒字商品に支えられているだけ
というケースも少なくありません。


人件費・工数をどう扱うか

原価見える化で最大の壁になるのが、
人件費と工数です。

完璧なタイムトラッキングは不要です。
まずは次のような考え方で十分です。

  • 1日8時間 × 月稼働日数
  • 1人あたりの月間稼働時間
  • 主要業務に使っている割合

これをもとに、
「この仕事に、何時間かかっているか」
を概算で割り当てます。

重要なのは、
正確さよりも比較できる状態を作ることです。


原価が見えると、判断が変わる

原価が見えるようになると、
経営判断が明確に変わります。

  • 利益が出ていない仕事を続けている理由は何か
  • 手間がかかる仕事は、価格に反映できているか
  • 同じ売上でも、どちらの方が効率が良いか

これらが、感覚ではなく
数字で語れるようになるのです。

この状態になって初めて、
値上げ・業務改善・撤退判断が現実的になります。


よくある失敗例

原価の見える化で、よくある失敗は次のとおりです。

  • 最初から完璧な管理を目指す
  • 現場に負担の大きい仕組みを導入する
  • 見える化しただけで満足してしまう
  • 数字を経営判断に使っていない

見える化はゴールではありません。
意思決定のための手段です。


まとめ:原価は「下げるもの」ではなく「判断するもの」

原価管理の本質は、削減ではありません。
経営判断を正しくするための情報整備です。

原価が見えるようになると、

  • 値決めに自信が持てる
  • 改善すべき業務が分かる
  • やめるべき仕事が判断できる

収益改善は、ここから一気に加速します。