■ はじめに:数字だけでは経営は理解できない

経営改善計画の策定において、
資金繰り表や収益計画など“数字”は確かに重要です。

しかし、銀行や協議会が最も重視するのは
「ビジネスモデルがどう成り立ち、どこに課題があるのか」
という全体像です。

この全体像を整理し、“見える化”するためのツールが
ビジネスモデル俯瞰図です。


■ ビジネスモデル俯瞰図とは?

ビジネスモデル俯瞰図とは、
企業の事業構造(売上・顧客・提供価値・コスト・業務フローなど)を
1枚にまとめた「経営の地図」です。

  • 誰に(顧客)
  • 何を(商品・サービス)
  • どのように(仕組み・プロセス)
  • いくらで(売上・利益構造)

といった事業全体の動きを“視覚的に整理”することで、
経営課題を瞬時に把握することができます。

💡銀行担当者が最も理解しやすい資料は「数字」ではなく「俯瞰図」です。


■ なぜ俯瞰図が重要なのか?

① 経営課題が“見える化”され、改善策が立てやすい

赤字の原因が

  • 売上構造
  • 顧客構成
  • 販売方法
  • 原価構造
    のどこにあるのかが、一目でわかります。

② 金融機関が事業を理解しやすい

俯瞰図があると、銀行担当者が業界知識を持っていなくても
“どんなビジネスで、どこに問題があるか”が理解できます。

③ 改善策の優先順位が整理できる

俯瞰図は、改善策を議論する際の“共通の土台”になります。
経営者・支援者・銀行が同じ絵を見ながら話ができるため、議論がスムーズに進みます。


■ ビジネスモデル俯瞰図の構成要素

代表的な構成は次の6つです。

1️⃣ 顧客(誰に)
 法人・個人・業種・地域で分類。主要顧客の比率を表示。

2️⃣ 提供価値(何を)
 商品・サービス、解決する課題、独自価値。

3️⃣ 販売チャネル(どのように)
 直販・代理店・Web・OEMなど。

4️⃣ 収益モデル(いくらで)
 売上構造・粗利率・収益の柱を可視化。

5️⃣ 業務プロセス(どう作る/どう届ける)
 仕入→製造→販売→回収の流れ。

6️⃣ コスト構造
 人件費・原価・外注費・固定費・変動費の比率。


■ 実際の俯瞰図のイメージ(テキスト版)

┌──────── 顧 客 ─────────┐
│主力:建設業者70%/一般顧客20%/他10% │
└ ────────────────────┘

┌─────── 提供価値 ─   ──────┐
  高品質ダクト製造/短納期対応/現場調整力 │
└─────────────── ─────┘

┌─────── 販売チャネル ───────┐
│   直販60%/元請紹介30%/Web10%        │
└─────────────────────┘

┌──────── 収益モデル ────────┐
│   売上=製造売上+工事売上(粗利率22%)   │
│   問題:外注比率が高く利益低下             │
└──────────────────────┘

┌──────── 業務プロセス ──────  ───┐
│ 見積→受注→製作→現場→請求→入金(60日サイト) │
└──────────────────────  ──┘

┌──────── コスト構造 ─────────  ┐
│ 人件費40%/原価30%/外注費20%/経費10%     │
└────────────────────────┘

この1枚があるだけで、銀行は“何が問題で何を改善するのか”を理解できます。


■ 作成時のコツ(実務で使えるポイント)

🔵1.「課題のある部分」を強調する

ただ図解するだけの俯瞰図は意味がありません。
赤字の原因やリスク部分を強調して示しましょう。

例:

  • 外注比率が高い
  • 粗利率が低い商品が売上の過半
  • 回収サイトが長い
  • 主力客の依存度が高い(A社が50%など)

🔵2. 数字を盛り込む(比率・単価・構成比)

定性的な説明では銀行は評価しません。
構成比(%)を入れるだけで、理解度は大きく上がります。

🔵3. “1ページで完結”させる

俯瞰図は「社長が説明しなくても伝わる1枚」が理想。


■ 経営改善計画での使い方

ビジネスモデル俯瞰図は、計画策定の早い段階で使用します。

  • 現状分析(DD)の際に作成
  • 課題整理の基礎資料になる
  • 改善策を立てる際の「方向性」を可視化
  • 銀行説明資料として活用
  • モニタリング(伴走支援)の評価軸に活用

特に、銀行提出時に俯瞰図を添付すると、計画書全体の理解が深まり、
条件変更・追加融資の交渉がスムーズになります。


■ まとめ:俯瞰図は「再建のコンパス」

ビジネスモデル俯瞰図は、
経営の全体像を把握し、課題を的確に特定するための“再建のコンパス”です。

  • 経営の見える化
  • 課題の共有
  • 改善策の方向性
  • 金融機関との共通言語

すべてが、この1枚の俯瞰図から始まります。

💬 経営改善の成功率は、「数字」と「俯瞰図」の両方が揃ったときに最大化します。