
― 自社の状況に合った“経営改善の処方箋”を選ぼう
■ はじめに:どちらの制度を使えばいいの?
中小企業庁が推進する「経営改善計画策定支援事業」には、
2つの制度が存在します。
1️⃣ 早期経営改善計画策定支援事業(バリューアップ支援)
2️⃣ 経営改善計画策定支援事業(405事業)
どちらも「認定経営革新等支援機関」のサポートを受けながら
経営改善計画を策定する点は共通ですが、
目的・規模・補助金の上限・金融機関との関わり方が大きく異なります。
本記事では、それぞれの制度を比較しながら、
「自社にはどちらが合っているのか」を見極めるポイントを解説します。
■ 早期経営改善計画(バリューアップ支援)の特徴
早期経営改善計画は、
「まだ金融支援が必要なほどではないが、今のうちに経営を立て直したい」
という企業のための制度です。
- 経営数字の整理
- 資金繰り表・ビジネスモデル俯瞰図の作成
- 簡易な収益改善計画の策定
など、経営の“見える化”を目的とした予防型支援です。
金融機関への提出は任意ですが、提出することで信頼関係の回復につながります。
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 対象 | 軽度な経営課題を抱える中小企業 |
| 補助率 | 3分の2 |
| 上限額 | 25万円(計画策定15万+伴走5万+決算期5万) |
| 金融機関関与 | 任意(提出可能) |
| 支援期間 | 約1〜3か月 |
| 目的 | 早期対応・経営の見える化・改善習慣の定着 |
■ 経営改善計画(405事業)の特徴
一方、405事業は金融支援を伴う本格的な再建支援制度です。
すでに返済困難・赤字・リスケジュールが必要な状況を想定しています。
専門家がデューデリジェンス(DD)を実施し、
財務・事業・組織を徹底分析したうえで、
金融機関と合意形成しながら再建計画を策定します。
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 対象 | 借入金返済など金融支援を必要とする中小企業 |
| 補助率 | 3分の2 |
| 上限額 | 300万円(DD200万+伴走100万) |
| 金融機関関与 | 必須(条件変更・融資協議) |
| 支援期間 | 約3〜6か月(+モニタリング1〜2年) |
| 目的 | 抜本的な再建・金融支援・経営再構築 |
■ 両制度の比較一覧
| 比較項目 | 早期経営改善計画(バリューアップ支援) | 経営改善計画(405事業) |
|---|---|---|
| 目的 | 経営の早期立て直し(予防) | 本格的な再建(再生) |
| 支援内容 | 経営診断・資金繰り表・俯瞰図・簡易計画 | DD・計画策定・金融調整・伴走支援 |
| 補助上限 | 25万円 | 300万円(中小版GL枠は700万円) |
| 金融機関関与 | 任意提出 | 必須・合意形成あり |
| 対象企業 | 軽度な経営課題を抱える企業 | 借入返済困難・金融調整が必要な企業 |
| 支援者 | 認定支援機関(税理士・診断士など) | 認定支援機関+弁護士・金融関係者 |
| 期間の目安 | 1〜3か月 | 3〜6か月+モニタリング1〜2年 |
| 成果イメージ | 経営の見える化・意識改革 | 金融支援・再建・黒字化 |
■ どちらを使うべきか?判断の目安
経営者が制度選択を考える際の“目安”を以下に整理します。
| 経営状況 | 適した制度 |
|---|---|
| 売上が減少しているが、返済は継続できている | ✅ 早期経営改善計画 |
| 経営数字を整理したい・金融機関と関係を良くしたい | ✅ 早期経営改善計画 |
| 赤字が続き、返済が厳しくなってきた | ✅ 経営改善計画(405事業) |
| すでにリスケ中または条件変更を検討している | ✅ 経営改善計画(405事業) |
| 新規融資を受けるために再建計画を提示する必要がある | ✅ 経営改善計画(405事業) |
💬 ポイント:
「まだ間に合う段階」では早期経営改善計画、
「すでに厳しい段階」では405事業を選択するのが基本です。
■ 2つの制度は“連携”できる
実はこの2つの制度は、連続的に活用することも可能です。
例えば――
1️⃣ まず「早期経営改善計画」で経営を見直し、数字を整理。
2️⃣ その上で、金融支援が必要と判断された場合は「405事業」にステップアップ。
この流れにより、無理のない再建プロセスを構築できます。
■ 制度選択の際のアドバイス
- 協議会に早めに相談する
どちらの制度を使うべきか判断してもらえる。 - 専門家(認定支援機関)を早期に選定する
業界知識と財務力を兼ね備えたパートナーが重要。 - 金融機関との関係を絶やさない
“報告を止めない・相談を早める”ことが信頼回復の第一歩。
■ まとめ:状況に応じた制度選択が「再建成功」の第一歩
経営改善計画の制度は、どちらが優れているかではなく、
「自社の今の状態」に合った制度を選ぶことが重要です。
- 軽症なら「早期経営改善計画」で早めの処方
- 重症なら「405事業」で本格的な治療
この二段構えの仕組みが、中小企業の再建を支えています。
制度をうまく使い分けることで、倒産を防ぎ、再挑戦のチャンスを広げることができます。
次回は、「第7回:経営改善計画で『金融機関と話せる関係』を取り戻す」で、

