中小企業が金融機関から融資を受ける際、経営者個人が連帯保証人となる「経営者保証」を提供することが一般的でした。
しかし、近年では経営者保証なしで融資を受けられる制度が登場しています。特に2024年3月から、保証料を上乗せすることで経営者保証を不要にする信用保証制度の申し込み受付が始まり、企業にとって大きなメリットとなることが期待されています。
経営者保証が不要となることにより、事業の成長や事業承継の障壁が低くなり、積極的な投資や事業拡大が可能になります。
この記事では、経営者保証なしでも利用できる信用保証制度の内容と、経営者保証提供による融資のリスクについて紹介します。
経営者保証が不要になった背景
経営者保証は、企業が融資を受ける際に経営者が連帯保証人となり、企業が返済できなくなった場合に個人がその返済責任を負うというものです。この仕組みは、経営者にとって大きなリスクを伴うため、事業の拡大や新規事業の立ち上げ、事業承継において障害となることがありました。
この問題を解決するため、政府は2014年に「経営者保証に関するガイドライン」を策定し、経営者保証に依存しない融資を促進する取り組みを進めてきました。しかし、依然として中小企業の約40%が信用保証制度を利用しており、そのうち約7割の融資で経営者保証を求められる状況にあります。このため、経済産業省は新たに経営者保証なしの信用保証制度を導入しました。
経営者保証が不要な新たな信用保証制度
2024年から、以下の3つの新しい信用保証制度が導入され、経営者保証を提供せずに融資を受けることができるようになりました。
- 事業者選択型経営者保証非提供制度
- 事業者選択型経営者保証非提供促進特別保証制度
- プロパー融資借換特別保証制度
これらの制度は、いずれも創業者向けではなく、既存事業を行っている企業が対象です。
創業者向けの「スタートアップ創出促進保証」とは異なる点に注意が必要です。
1. 事業者選択型経営者保証非提供制度
この制度では、保証料を上乗せすることで経営者保証を提供せずに信用保証付き融資を利用できます。
2024年3月15日から受付が始まり、申込の相談は各都道府県の信用保証協会や金融機関で行うことができます。
対象要件
この制度を利用するためには、以下の要件をすべて満たしている法人であることが求められます。
- 過去2年間に決算書を提供していること
- 代表者に対する過度な金銭支払いがないこと
- 債務超過でない、または直近2期で赤字が連続していないこと
- 保証料率の引き上げを条件に経営者保証を提供しないことを希望していること
保証料率
保証料に上乗せされる割合は、法人の財務状況によって異なります。基準を満たす度合いによって、0.25%または0.45%が追加されます。
2. 事業者選択型経営者保証非提供促進特別保証制度
こちらは、事業者選択型経営者保証非提供制度をさらに促進するための時限措置で、2027年3月末までの期間限定で適用されます。この制度では、保証料率の上乗せ分が軽減される点が特徴です。
保証料率・補助率
保証料率は0.25%または0.45%に上乗せされますが、国から補助があり、申込み時期によって補助率が異なります。例えば、2024年3月15日から2025年3月末までの申し込み分には、0.15%相当の補助があります。
3. プロパー融資借換特別保証制度
プロパー融資とは、信用保証協会の保証がつかない融資のことですが、これを経営者保証なしの融資に借り換えることができる特別制度です。
この制度も2027年3月末までの時限措置であり、申し込みには条件があります。
対象要件
経営者保証を提供したプロパー融資を借り換えたい法人が対象です。具体的には、資産超過であることや、一定の経営指標を満たすことが求められます。
経営者保証で融資を受けるリスク
経営者保証を提供する融資には、以下のようなリスクがあります。
- 個人の財産で返済しなければならない
- 経営者が連帯保証人となるため、会社が返済できなくなった場合には経営者個人の財産で返済しなければならず、最悪の場合、破産のリスクもあります。
- 事業展開の意欲が抑制される
- 経営者保証を求められることで、事業のリスクが大きく感じられ、新たな事業展開や資金調達に消極的になりがちです。
- 事業承継の障壁となる
- 後継者が経営者保証を恐れて事業承継を拒否することもあり、事業承継のハードルが高くなる可能性があります。
経営者保証なしの融資制度を活用しよう
新たな信用保証制度は、保証料が上乗せされるという点ではデメリットもありますが、経営者の大きなリスクを回避できる点で大きなメリットがあります。
特に、新規事業の展開や事業承継を円滑に進めるために、この制度を活用することは有効です。
自社の状況に合った制度を選び、資金調達に役立てましょう。