
~成熟期に必要な「起業家の視点」とは~
前回までの記事では、事業の成長ステージ「幼年期」「青年期」、そして多くの企業が直面する「仕組み化の壁」について解説しました。今回は、いよいよ最終段階である「成熟期」についてご紹介します。
事業成長3ステージの復習
まずは、成長ステージと経営者に求められる人格の変化を簡単におさらいしましょう。
📊【図解:事業成長と経営者の人格変化】
ステージ | 主体となる人格 | 特徴 |
---|---|---|
幼年期 | 職人 | 自らのスキルで事業を推進 |
青年期 | マネージャー | 混乱に直面し、仕組みづくりが求められる |
成熟期 | 起業家 | ビジョンを示し、組織を永続化する段階 |
成熟期に到達する企業は少数です。その要因の一つが、経営者が「職人」や「マネージャー」の視点にとどまり、「起業家の視点」へと進化できないことです。
では、この「起業家の視点」とは一体どのようなものでしょうか?
成熟期に求められる「起業家の視点」
ガーバー氏は、IBM創業者トーマス・ワトソンの次の言葉を引用しています。
- 将来像が明確だった
- 理想の会社であるかのように行動した
- その基準で経営を行った
これがまさに「起業家の視点」です。
🧭【図解:職人と起業家の思考の違い】
項目 | 職人の視点 | 起業家の視点 |
---|---|---|
仕事の捉え方 | 今の仕事に集中する | 将来の会社像から逆算して行動する |
目的 | 好きな仕事をする | 顧客に価値を届ける仕組みを構築する |
経営判断の出発点 | 現在の自分 | 目指す会社像 |
商品の定義 | 顧客に渡す成果物 | 事業全体そのもの |
成熟期において大切なのは、事業を“商品”として考え、企業活動そのものに価値を宿すことです。
商品以上に重要なもの、それは「やり方」
本書では、「成功のカギは商品ではなく、“どうやってビジネスを行うか”にある」と述べられています。
これは「ビジネスモデルをつくる」というより、「ビジネスのやり方=仕事の基準・仕組み」が重要であるという考えです。
マクドナルドやスターバックスのような企業は、目新しい商品ではなく、**高い基準で統一された“やり方”**により他社との差別化を図っています。
✅「やり方」を支える3つの視点
- 明文化されたルール(=基準)
- 日々の行動が基準に基づいていること
- 全員がその基準で行動できる仕組み
これが、成熟期において経営者が持つべき「起業家の視点」です。
会社全体を「作品」として仕上げる
「起業家にとって、事業そのものが商品である」
― マイケル・E・ガーバー
この言葉は、本書の中でも特に本質的な部分です。
職人が自分の技術を磨き、作品の完成度を追求するように、起業家は事業全体の完成度を高める存在です。
そのためには、マーケティングや開発、営業、バックオフィスといった全ての業務に高い基準が求められます。
仕組み=再現可能な自社独自のやり方
私たちは「仕組み」を次のように定義しています。
💡仕組み=自社独自の再現性のある仕事のやり方
重要なのは、属人的に成功することではなく、誰が行っても同じ成果が出せること。
たまたま優秀な社員が入社したから上手くいった、では再現性がありません。
再現可能な仕組みがあれば、どの社員が担当しても一定の品質と成果が担保されます。これが競争優位につながるのです。
商品より「商品を生み出す仕組み」を育てる
もちろん、良い商品がなければ事業は成り立ちません。
しかし、一度だけ良い商品を生み出すことと、継続的に優れた商品を生み出す仕組みを持つことでは、企業としての価値がまったく異なります。
起業家の視点とは、後者――つまり、「仕組み」を通じて価値を生み出し続ける力を育てることなのです。
まとめ:あなたの会社は「起業家の視点」で動いていますか?
今回は、『はじめの一歩を踏み出そう』の「成熟期」と「起業家の視点」について解説しました。
- 経営者は、事業全体を商品と捉えるべき
- 事業は自社独自の“高い基準”で動かすことが重要
- その基準を再現性ある仕組みに落とし込むことで、組織が成長する
これらを実践できる企業こそが「成熟期」に到達し、経営者がその場を離れても成長し続ける仕組みを持った“永続する企業”となるのです。