
はじめに
資材・人件費の上昇が止まらない中で、「従来の単価のままでは利益が出ない」という声が建設業界で急増しています。
しかし、単価を上げるにも根拠がなければ、顧客や元請は納得してくれません。
いま求められているのは、**“感覚”ではなく“数字”に基づいた価格戦略”**です。
本記事では、単価見直しの手順と、利益を確保するためのシミュレーション方法を解説します。
1. 「単価据え置き」の危険性
建設業の多くは、長年の取引慣行により「以前の単価がそのまま続いている」ケースが少なくありません。
しかし、2020年以降のコスト上昇は次の通りです。
項目 | 上昇率(2020→2025) |
---|---|
資材費(鉄・鋼材) | +30〜40% |
労務費(職人・外注) | +15〜20% |
燃料・運搬費 | +25%前後 |
つまり、原価だけで2割以上上がっているのに、単価が据え置きであれば利益は確実に減っています。
2. 単価見直しの基本ステップ
Step1:原価の見える化
工事ごとに「実行予算」と「実績原価」を比較します。
最低限、次の4項目を把握しましょう。
原価項目 | 例 | 比較のポイント |
---|---|---|
材料費 | 鋼板、配管、金物 | 資材単価上昇率を反映しているか |
労務費 | 自社社員・外注職人 | 実際の稼働時間と単価の差 |
経費 | 現場交通費・管理費 | 工期延長や残業を反映しているか |
粗利 | 売上−原価 | 利益率が10%未満なら要見直し |
数字を“見える化”するだけで、どの部分に歪みがあるかが明確になります。
Step2:目標利益率を設定
単価を見直す際は、「どの程度の利益を確保したいか」を明確にします。
工事種別 | 目標粗利率(目安) |
---|---|
元請工事 | 25〜30% |
下請工事 | 15〜20% |
改修・リフォーム | 30〜35% |
設定した粗利率をもとに、必要な販売単価を逆算します。
Step3:シミュレーションで根拠を作る
💡 例:空調ダクト工事(原価合計80万円/目標粗利率25%)
売上=80万円 ÷ (1−0.25)=106.6万円
→ 単価10%アップでは足りず、約33%上げて初めて目標利益率に到達。
このように、“どれくらい上げれば利益が確保できるのか”を数字で示すことで、社内でも顧客にも納得される単価改定が可能になります。
3. 単価見直しのタイミングと伝え方
タイミング | 内容 |
---|---|
新年度・契約更新時 | コスト上昇を理由に改定を提案 |
新工種・新材料採用時 | 工事仕様変更に伴う単価見直し |
公的データ更新時 | 国交省の資材価格指標を提示し説明 |
伝え方のポイントは、「値上げのお願い」ではなく「適正価格への見直し」と表現すること。
💬 例文:
「昨今の資材・人件費の上昇により、従来の単価では品質維持が困難なため、適正価格へ見直しをお願いしたいと考えております。」
誠実かつ根拠ある説明が信頼関係を保ちます。
4. 社内でも単価を“仕組みで管理”する
単価改定を一度実施しても、担当者ごと・現場ごとにバラバラでは効果が薄れます。
そこで重要なのが、**「単価管理表」**の運用です。
項目 | 内容 |
---|---|
資材名 | 鋼板、配管など |
仕入先 | 商社A、問屋B |
前回単価 | 〇〇円/kg |
現在単価 | △△円/kg |
改定日 | YYYY/MM/DD |
理由 | 鉄鋼価格上昇10%など |
この一覧を共有すれば、見積段階での判断ミスを防げます。
図解:単価見直しで利益を守る流れ
原価上昇
↓
見える化(原価分析)
↓
目標利益率を設定
↓
必要単価をシミュレーション
↓
適正価格で見積・交渉
↓
利益確保・再投資
5. 補助金・支援策でデータ管理を強化
単価管理や収益シミュレーションに必要なツール導入には、
以下の補助金が活用可能です。
制度 | 活用例 |
---|---|
IT導入補助金 | 見積・原価・利益管理システム導入 |
経営力向上計画 | 価格交渉力強化を目的とした認定支援 |
ものづくり補助金 | 原価計算・自動見積のシステム投資 |
「感覚経営」から「数字経営」へ転換するための支援制度を活用しましょう。
チェックリスト:単価見直しの準備度(5項目)
- 各工事の原価と粗利率を把握しているか?
- 目標利益率を社内で明文化しているか?
- 単価改定の根拠を数字で説明できるか?
- 単価管理表を定期的に更新しているか?
- シミュレーションツールや補助金を活用しているか?
まとめ
単価見直しは「交渉」ではなく「経営判断」です。
数字をもとに合理的な根拠を示せば、取引先も納得し、結果として自社の信頼も高まります。
これからの時代、**単価を守る会社ではなく“利益率を設計できる会社”**が生き残ります。