はじめに

中小建設業の多くは、長年にわたり元請け企業やゼネコンからの下請け仕事で事業を支えています。
しかし、資材高騰や賃金上昇の時代においては、「下請け中心」では利益が出にくい構造になっています。
今こそ、部分的でも「直請け案件(元請け)」を増やし、価格決定権と収益性を取り戻す経営へと転換することが重要です。


1. 下請け依存のリスクを再確認

下請け構造は安定受注の面では強みですが、同時に以下のリスクを抱えます。

リスク項目内容
価格支配元請けの単価に従うため、値上げが難しい
利益率低下材料費・人件費上昇を転嫁できない
取引集中特定の元請け依存で、案件減少が経営危機に直結
交渉力の欠如契約条件・支払サイトを自社で決められない

結果として、「働いても儲からない」「利益が出ない現場ばかり」という状況に陥りやすいのです。


2. 直請け案件のメリット

直請け案件を増やすことで、経営の自由度と安定性は大きく高まります。

項目元請(直請け)下請
利益率高い(25〜30%)低い(10〜15%)
価格決定権自社が主導元請けが主導
顧客関係長期・直接間接・不透明
ブランディング自社名で評価他社名の下で作業

直請け案件を持つことで、**「選ばれる会社」から「指名される会社」**へとポジションが変わります。


3. 直請けを増やすための3ステップ

Step1:強みを明確化する

直請けを取るには、まず**「自社は何が得意か」**を明確にする必要があります。

💡 例:
・公共工事の小規模土木なら「小回りと即応性」
・住宅リフォームなら「地域密着・迅速対応」
・設備工事なら「メンテナンスも一貫対応」

自社の強みを明文化し、「選ばれる理由」=顧客に伝わる言葉に変換しましょう。


Step2:顧客チャネルを拡大する

直請け案件の開拓は、「営業活動の再設計」から始まります。

チャネル具体的手法
地域施主地域チラシ・紹介・HP・Googleビジネス
公共工事地方自治体入札(小規模・指名競争)への登録
法人取引店舗・ビルオーナーへの提案営業
BtoB連携不動産会社・設計事務所・管理会社との協業

初めから大きな案件を狙うよりも、**「自社規模で対応できる小口直請け」**から始めることがポイントです。


Step3:見積・契約・請求の仕組みを整える

直請けでは、「お客様対応」や「契約管理」も自社責任になります。
ここを整備しないと、せっかく受注してもトラブルが起きやすくなります。

✅ 整備しておくべき基礎書類
・見積書テンプレート(詳細な内訳付き)
・請負契約書(印紙・約款の確認)
・請求書・領収書フォーマット
・工事完了報告書・保証書

こうした基本書類を整えることで、**信頼される「元請け型の会社」**として認知されます。


図解:下請け脱却のステップ

下請け依存
 ↓
強みの明確化
 ↓
顧客チャネルの拡大
 ↓
契約・管理体制の整備
 ↓
直請け案件の安定化
 ↓
利益率の向上

4. 補助金・支援制度を活用する

直請け化に向けた営業活動や仕組みづくりには、以下の支援制度も活用できます。

支援策活用例
小規模事業者持続化補助金ホームページ制作、チラシ作成、営業車両ラッピングなど
ものづくり補助金見積・原価管理ソフト導入など
経営力向上計画金融機関との交渉に有利に

「営業・契約・原価管理」の仕組みを整えること自体が、補助金の対象になるケースも多いです。


チェックリスト:直請け案件拡大のための6項目

  1. 自社の「強み」が明文化されているか?
  2. 地域・業界でターゲット顧客を定めているか?
  3. 営業チャネル(紹介・HP・行政)を複数持っているか?
  4. 見積書・契約書などの書式を整備しているか?
  5. 小規模案件から直請けを始めているか?
  6. 補助金や支援制度の情報を把握しているか?

まとめ

下請け依存からの脱却は一朝一夕ではできません。
しかし、強みを明確にし、小さな直請けを積み重ねることから始めれば、着実に「価格決定権」を取り戻すことができます。
直請け化は単なる収益向上策ではなく、企業の自立とブランド力強化の第一歩です。