
はじめに
建設業の経営において、資材価格の変動は利益を大きく左右します。特にここ数年は、鉄鋼・コンクリート・木材・燃料などの主要資材が軒並み値上がりし、**「受注した時点で赤字」**というケースも増えています。
この資材高騰は一時的なものではなく、構造的なコスト上昇として今後も続く可能性があります。今回は、資材高騰がどのように建設会社の収益構造に影響するのか、そして経営者が取るべき対策を解説します。
1. 資材価格上昇の現状
ここ数年、鉄鋼や木材、アスファルト、燃料などの価格が大きく上昇しています。
特に鉄鋼製品は、円安とエネルギー価格の高止まりを背景に2020年比で約30〜50%高。コンクリート・セメント類も運搬コスト上昇の影響で値上がりしています。
これらのコストは現場の材料費として直撃し、原価を押し上げます。
しかし、受注時点での単価にこれらの変動を十分に反映できないことが多く、実質的な利益率低下を招いているのです。
2. 下請け構造と価格転嫁の難しさ
中小建設業の多くは下請け・孫請けの立場にあります。
元請けからの契約は固定価格が多く、資材費の変動を後から反映することは難しいケースが一般的です。
よくある状況
- 「契約後に資材価格が10%上がっても請負金額は変わらない」
- 「値上げを交渉すると次の発注が減るリスクがある」
こうした状況では、原価上昇を吸収する余地がなく、利益の削り合いになってしまいます。
3. 建設会社の収益構造を分解する
建設業の利益構造は大きく以下の3つで構成されています。
- 材料費(資材・機材)
- 労務費(自社社員・外注職人)
- 経費(現場経費・管理費・販管費)
このうち材料費の割合は**30〜40%**を占めます。つまり、資材価格が10%上がると、全体原価は約3〜4%上昇します。
利益率が5%前後の中小企業にとって、この3〜4%は致命的な打撃です。
図解:資材高騰が利益を圧迫する構造
【売上高】100%
│
├─ 材料費 35% → 資材価格+10% → 38.5%
├─ 労務費 40%
├─ 経費 20%
└─ 利益 5% → 1.5%に減少!
このように、資材価格の上昇は利益を圧縮し、賃上げや設備投資に使える原資を奪っていきます。
4. 経営者が取るべき3つの対策
(1)原価の見える化
まずは、自社の「1現場ごとの採算」を把握することが出発点です。
材料費・労務費・外注費・経費を現場別に集計し、利益が出ている案件と出ていない案件を明確にします。
📊 ポイント:
・工事別の原価台帳を作成
・材料費が全体の何%を占めているかを毎月確認
・採算割れ案件の共通点を抽出
(2)価格転嫁の交渉
次に、元請け・取引先との協議です。
国土交通省も「価格転嫁の適正化」を求めるガイドラインを出しており、実際に交渉を行った企業の多くで成果が出ています。
💬 交渉のコツ
・単なる「値上げ要請」ではなく、データに基づく説明を行う
・資材価格推移(鉄鋼・木材など)の公的データを提示
・「継続的な品質確保・安全確保のため」という観点で話す
(3)仕入れ先の分散と共同購買
特定の商社や問屋に依存しすぎると、価格交渉力が下がります。
地域の同業者と連携して「共同購買」や「リース機材の共用化」を行うことで、1社では得られないスケールメリットを出せます。
💡 実例:
地域の建設協同組合が「共同資材センター」を設置し、仕入れコストを10〜15%削減。
5. 粗利改善の視点を持つ
資材価格の上昇は避けられないとしても、粗利率を下げない努力は可能です。
例えば、
- 同一資材でもコストパフォーマンスの高い代替材を検討
- 廃材ロスを減らす
- 現場ごとの材料発注を最適化する
など、現場の工夫で1〜2%の改善が実現できます。
チェックリスト:資材高騰対策の自己診断(5項目)
- 現場ごとの原価台帳を作成しているか?
- 材料費の変動を毎月データで確認しているか?
- 元請け・取引先と価格転嫁の話し合いを行っているか?
- 商社・問屋を複数ルートで確保しているか?
- 共同購買や代替資材の検討を行っているか?
まとめ
資材高騰は外部要因であり、企業単独では止められません。
しかし、「見える化」と「交渉」と「協働」によって、影響を最小限に抑えることは可能です。
特に、数字で説明できる経営者ほど、取引先や金融機関からの信頼を得やすくなります。