
はじめに
2025年を迎えた今、日本の中小建設業を取り巻く環境はこれまで以上に厳しさを増しています。資材価格の高騰、賃金の上昇、そして慢性的な人材不足。これらは個別の課題ではなく、複雑に絡み合い、経営者の意思決定を難しくしています。
本記事では、まずこの「外部環境の変化」を整理し、自社にどのような影響が及んでいるのかを考える第一歩とします。
1. 物価高の影響
資材価格の上昇
- 鉄鋼やセメント、木材など建設資材の価格は、円安や原材料高騰の影響で上昇が続いています。
- 特に公共工事に多い鉄鋼製品や住宅建設に不可欠な木材は、数年前の1.3~1.5倍の価格水準で推移しています。
下請けへの圧力
- 元請けからの価格転嫁が十分に進まず、「受注した時点で赤字」の案件も少なくありません。
- 契約後の資材高騰リスクをどう吸収するかが経営課題となっています。
2. 賃金高の影響
最低賃金の上昇
- 政府は最低賃金を全国平均で時給1,500円を目指す方針を打ち出しています。
- 建設業は重労働かつ安全管理コストも高いため、現場作業員の賃金上昇幅は他業種よりも大きくなりがちです。
経営への負担
- 人件費は工事原価の3〜4割を占めるため、賃金上昇が利益を直撃します。
- 「社員の生活を守りたい」思いと「会社の利益を確保する」必要性の板挟みになっている経営者が多いのが現状です。
3. 人材不足の影響
技能者の高齢化
- 建設業の就業者の3人に1人が55歳以上。若手不足が深刻です。
- 技能伝承の遅れが、工期遅延や品質低下のリスクを生んでいます。
採用難
- 若者の建設業離れが続いており、求人を出しても応募が集まりにくい。
- 「給料を上げれば採用できる」という単純な話ではなく、働き方や企業イメージの改善が求められています。
4. 3つの課題の連鎖
物価高・賃金高・人材不足は、それぞれが単独で経営を圧迫するだけでなく、負の連鎖を生み出します。
- 資材価格の上昇 → 工事原価増 → 利益減少
- 利益減少 → 賃上げ原資不足 → 人材流出
- 人材不足 → 工期遅延・品質低下 → 信用低下
- 信用低下 → 受注減少 → さらに利益減少
この悪循環から抜け出すためには、課題を「一つずつ」解決するのではなく、全体像を踏まえた経営計画が必要です。
図解:中小建設業を取り巻く外部環境の構造
[物価高]
│資材費上昇
↓
[利益圧迫]
│
↓
[賃金高]
│人件費増
↓
[資金不足]
│
↓
[人材不足]
│採用難・流出
↓
[工期遅延・品質低下]
↓
[信用低下 → 受注減少]
5. 経営者が取るべき第一歩
- 現状把握:自社に最も影響が大きいのは「資材費」「人件費」「人材確保」のどこかを把握する。
- 数字で可視化:工事ごとの利益率、採算割れ案件の割合、離職率などを見える化する。
- 優先順位付け:改善策は同時に全てできないため、最も効果の大きい部分から取り組む。
チェックリスト:自社の外部環境を把握するための5つの質問
- 資材費の上昇分を受注価格に反映できているか?
- 直近3年間で人件費はどの程度増加しているか?
- 賃上げ分を吸収するだけの粗利改善策を持っているか?
- 採用活動で「応募ゼロ」の案件はなかったか?
- 技能者の年齢構成は偏っていないか?
まとめ
2025年の建設業は「資材費」「人件費」「人材」の三重苦に直面しています。経営者がまず行うべきは、現状を数字で把握し、課題の優先順位を付けることです。
次回(Day2)では、資材価格高騰と建設会社の収益構造についてさらに深掘りして解説します。