
企業の持続的な成長には、人材の能力向上とともに、組織そのものの柔軟性や協働性の強化が不可欠です。近年注目されているのが「組織開発(Organization Development)」というアプローチ。これは、個人だけでなく“組織全体”の関係性や構造に働きかけ、変革と成長を促す取り組みです。
本記事では、組織開発の基本から人材育成との違い、実際の取り組み方法、推進ステップまでを解説します。
図解:人材育成と組織開発の違い
項目 | 人材育成(Human Resource Development) | 組織開発(Organization Development) |
---|---|---|
対象 | 個人のスキル・能力 | 組織内の関係性・風土・構造 |
アプローチ | 研修、OJT、自己啓発 | 対話、フィードバック、組織診断 |
目的 | 個人の成長、職務遂行力向上 | 組織目標の達成、自己革新力の向上 |
組織開発とは?
組織開発は、1950年代末にアメリカで誕生し、欧米を中心に発展した手法です。日本では「組んで織りなす」人々が、共通の目的に向かいながら、相互作用を通じて組織を形成していくプロセスに着目します。
組織開発では、メンバー間の関係性を改善することで、組織のパフォーマンスや変革力を高めていきます。評価制度や人事制度などの“制度設計(ハード面)”だけではなく、信頼や協働の風土といった“ソフト面”にも働きかけるのが特徴です。
組織開発に取り組むメリット
- コミュニケーション活性化:部署や役職を超えた信頼関係が築かれます
- エンゲージメント向上:組織に対する帰属意識やモチベーションが高まります
- 離職率の低下:働く環境の改善により定着率が向上します
- 制度の機能強化:人事制度や評価制度が現場で有効に機能しやすくなります
企業の制度設計が整っていても、現場でその制度がうまく機能しないことは多々あります。評価制度が公平でも、信頼関係が築かれていなければ納得感が得られず、逆に離職に繋がることもあります。こうした背景から、「組織文化」への働きかけが重要視されているのです。
組織開発の主な4つの取り組み
① ヒューマン・プロセス(関係性への働きかけ)
信頼関係を築くためのチームビルディングや、対話の場を設ける活動が中心です。近年では、リモートワーク環境に対応した雑談力研修や、管理職のつながり強化なども注目されています。
② 技術・構造的アプローチ
部門構造の見直しや職務設計、サーベイフィードバックなど、組織の「構造」に関わる働きかけです。定量的データを活用した改善にも有効です。
③ 人材マネジメントによる働きかけ
1on1ミーティング、キャリア開発、メンタルヘルス対応など、人材支援の仕組みを整備し、関係性を強化します。
④ 戦略的アプローチ
ビジョンやミッションを組織内に浸透させ、共有価値観の形成を目指すアプローチです。ナレッジマネジメントや経営理念の再構築などが該当します。
組織開発の2つのアプローチ
診断型組織開発
アンケートやインタビューで組織の状態を可視化し、課題抽出・解決に導く手法。経営層の合意形成がしやすい反面、現場との温度差には注意が必要です。
対話型組織開発
ステークホルダー同士の対話を中心とし、組織の在り方を共に見出していくアプローチです。多様性の受容が進む一方、意見の分散には一定の収束が求められます。
※組織の状況によって、両者を組み合わせて活用することが理想的です。
組織開発を推進する3つのステップ
立教大学・中原淳教授は、組織開発を以下の3段階で進めることを提唱しています。
ステップ1:見える化
組織の課題を把握するために、アンケートやヒアリングでデータを収集し、現状を可視化します。
ステップ2:本音での対話
関係者が心理的安全性のある場で率直な意見交換を行い、相互理解と信頼を深めます。
ステップ3:未来づくり
対話から得た気づきを具体的なアクションに落とし込み、期限・責任者を明確にして実行に移します。
図解:組織開発の全体像
【組織開発の進め方】
┌──────┐
│ 見える化 │ ← 組織診断、アンケート
└──┬────┘
↓
┌──────┐
│ ガチ対話 │ ← 対話・相互理解
└──┬────┘
↓
┌──────┐
│ 未来づくり │ ← アクション・進捗管理
└────────┘
まとめ
組織開発は、目に見えにくい「関係性」や「組織風土」にアプローチすることで、制度や仕組みが本来の力を発揮できる土台を整える取り組みです。人事部門の負担を減らし、持続的に成果を出せる組織づくりのカギとなるでしょう。
組織の成長が鈍化している、人材が定着しない、制度が機能しない──そんな課題を感じているなら、いまこそ「組織開発」に着手するタイミングかもしれません。