
企業の経営状況を正しく把握し、適切な経営判断を行うために欠かせないのが決算書です。数字の羅列に見えても、その中には経営の全体像や課題が凝縮されています。本記事では、決算書の基本構造から分析のポイントまでをわかりやすく解説します。
1. 決算書とは?
決算書は、企業が1会計年度の経営成績と財務状況をまとめた報告書です。株主、金融機関、税務署、取引先などの利害関係者に対して経営情報を開示する役割を持ちます。
決算書には次の5種類があります。
- 貸借対照表(B/S)
- 損益計算書(P/L)
- キャッシュ・フロー計算書(C/F)
- 株主資本等変動計算書
- 個別注記表
このうち B/S、P/L、C/F の3つは「財務三表」と呼ばれ、企業分析の基盤となります。
図解:財務三表の概要
決算書名 | 主な内容 | 見る目的 |
---|---|---|
貸借対照表(B/S) | 資産・負債・純資産 | 安全性・財務体力の把握 |
損益計算書(P/L) | 売上・費用・利益 | 収益性の確認 |
キャッシュ・フロー計算書(C/F) | 現金の流れ(営業・投資・財務) | 資金繰りの健全性 |
2. 各決算書の読み方
① 貸借対照表(B/S)
- 構造:「資産 = 負債 + 純資産」
- ポイント:左側に資産、右側に負債と純資産が配置されます。
- 分析例:「自己資本比率」「流動比率」で財務の安定度を測定。
- 自己資本比率が高いほど借入依存が低く、安定経営が可能。
- 流動比率が100%以上であれば短期支払い能力は一定の安心感があります。
② 損益計算書(P/L)
- 役割:売上から費用を差し引き、利益を算出する。
- 重要利益段階:
- 営業利益(本業の稼ぐ力)
- 経常利益(通常活動全体の収益力)
- 当期純利益(最終的な利益)
- 分析例:「営業利益率」「経常利益率」で本業の収益性を比較。
③ キャッシュ・フロー計算書(C/F)
- 構成:
- 営業CF(本業による現金増減)
- 投資CF(設備投資や有価証券売買)
- 財務CF(借入や返済、配当)
- 重要性:黒字でも営業CFがマイナスなら資金繰りに課題あり。理想は営業CFがプラスであること。
3. 決算書から読み解く5つの分析指標
- 収益性
- 利益率(営業利益率・経常利益率・純利益率)で採算性を評価。
- 前年比較や業界平均との比較が有効。
- 生産性
- 労働生産性(1人当たり付加価値額)や資本生産性で効率を測定。
- 安全性
- 流動比率や自己資本比率で財務体力を把握。倒産リスクの早期察知に有効。
- 成長性
- 売上高成長率や経常利益成長率で将来性を確認。
- 例:あるSaaS企業は3年間で年平均15%成長を達成。
- 活動性
- 総資本回転率や棚卸資産回転率で資産の活用効率を評価。
4. 決算書作成の流れ(概要)
- 必要書類を準備し、記帳内容を精査
- 決算整理仕訳を行い、試算表を作成
- 税額計算と財務諸表への反映
- 決算終了後2カ月以内に法人税申告
5. 初心者がつまずきやすいポイントと対策
課題 | 対策 |
---|---|
数字が多くて全体像が見えない | まずは財務三表のつながりを把握する |
専門用語が難しい | 基本用語集を手元に置く |
指標の基準がわからない | 業界平均や過去比較を活用 |
図解:決算書の関連性
損益計算書(P/L)で利益を算出
↓
利益はB/Sの純資産に反映
↓
C/Fで現金の動きを確認
まとめ
決算書は企業の**「健康診断書」**です。
財務三表の基本構造と主要指標を理解すれば、経営状態の把握や将来予測が可能になります。経営者、管理職、投資家にとって、決算書を読む力は必須のビジネススキルです。
特に、中小企業では「利益は出ているが現金が不足」というケースも多く、P/LだけでなくC/Fまで確認することが健全経営への第一歩となります。