
企業が事業戦略を立案する際、「どの事業に資源を集中すべきか」を見極めることは極めて重要です。そうした意思決定をサポートするフレームワークの一つがGEのビジネススクリーンです。
これは、米国ゼネラル・エレクトリック(GE)とコンサルティング会社マッキンゼー・アンド・カンパニーが共同開発したもので、従来のPPM(プロダクト・ポートフォリオ・マネジメント)分析を進化させた手法です。本記事では、このビジネススクリーンの概要と活用方法を、図解付きでわかりやすく解説します。
GEのビジネススクリーンとは?
GEのビジネススクリーンは、企業が複数の事業を抱える中で、どの事業に投資・成長・維持・撤退の判断を下すかを明確にするための戦略分析ツールです。
従来のPPM分析が「市場成長率×市場シェア」の2軸で事業を4象限に分類するのに対し、GEのビジネススクリーンは以下の2軸を使用し、より詳細な9象限マトリクスで事業を評価します。
【図解】GEのビジネススクリーンの9象限マトリクス
| 業界での地位(高)| 業界での地位(中)| 業界での地位(低)
―――――――┼────────────┼────────────┼────────────
業界の魅力度| ① 優位死守 | ② 成長投資 | ③ 選択成長投資
(高) | | |
―――――――┼────────────┼────────────┼────────────
業界の魅力度| ④ 利益最大 | ⑤ 現状即応 | ⑥ 選択的収穫
(中) | | |
―――――――┼────────────┼────────────┼────────────
業界の魅力度| ⑦ 利益最大・コスト最小| ⑧ 選択衰退 | ⑨ 損失最小・撤退
(低) | | |
評価軸の解説
縦軸:業界の魅力度(高・中・低)
業界の将来性や収益性を以下のような観点から評価します。
- 市場規模と成長率
- 収益性の高さ
- 競争の激しさ
- マクロ環境(政治・経済・社会・技術)
- 参入・撤退障壁の高さ
- 機会と脅威(SWOT分析の外部要因)
横軸:業界での自社の地位(競争優位性)
自社がその業界内でどれだけの競争力を持つかを評価します。
- 市場シェアとその成長性
- 利益率
- ブランド力と顧客ロイヤルティ
- 独自性(技術・ノウハウなど)
- 自社の強み・弱み(SWOTの内部要因)
各象限における戦略的示唆
それぞれの象限に分類された事業に対して、以下のような戦略判断を行います。
【積極投資対象】
- ① 優位死守:業界も好調で競争力も高い。現状の強みを維持・拡大すべく積極的な投資を行う。
- ② 成長投資:業界は魅力的だが競争力は中程度。先行投資によりシェア拡大を目指す。
- ④ 利益最大:地位は高いが業界の魅力度は中。利益を最大化し、資金源として活用。
【選択的投資対象】
- ③ 選択成長投資:魅力ある市場だが自社の立ち位置は低い。有望な分野を見極めて選択的に投資。
- ⑤ 現状即応:業界・競争力ともに中程度。慎重に状況を見極めながら柔軟に対応。
- ⑦ 利益最大・コスト最小:競争力はあるが業界に将来性は乏しい。コスト削減を徹底して利益維持。
【撤退・縮小対象】
- ⑥ 選択的収穫:地位が低く、業界の成長性も中程度。収益性が見込めない部分は撤退を検討。
- ⑧ 選択衰退:競争力も業界の魅力も低下。縮小撤退の方向で再構築を進める。
- ⑨ 損失最小・撤退:最も厳しい象限。損失を最小限に抑えるために早期撤退や売却を行う。
PPM分析との違いとビジネススクリーンの優位性
比較項目 | PPM分析 | GEビジネススクリーン |
---|---|---|
軸数 | 2軸(4象限) | 2軸(9象限) |
分析軸 | 市場成長率 × 相対的市場シェア | 業界の魅力度 × 自社の業界内での地位 |
判断の粒度 | シンプル・概括的 | 精緻・多面的 |
投資戦略 | 大まかな方向性 | より具体的な判断が可能 |
PPM分析は簡潔さが魅力ですが、業界の外部要因や自社の内部資源の強みなどを十分に反映できないことがあります。一方、GEのビジネススクリーンは多面的な評価を取り入れることで、実務的かつ柔軟な戦略立案を実現します。
活用ステップ:GEビジネススクリーンを導入するには
1. 評価指標の設定
まずは業界の魅力度と自社の競争力を評価するための具体的な指標を定めましょう。必要に応じてSWOTやPEST分析なども活用します。
2. 自社の事業をマッピング
各事業について、2つの軸を「低・中・高」で評価し、9象限マトリクス上に配置します。
3. 戦略方針の決定
マッピング結果に基づいて、それぞれの事業に対する投資・維持・撤退といった判断を行います。
まとめ:戦略的な資源配分に不可欠な分析ツール
GEのビジネススクリーンは、企業が限られたリソースを効果的に活用し、長期的な成長戦略を設計するうえで有効なフレームワークです。
- 9象限の視点で事業を評価し
- 状況に応じた投資戦略を選定し
- 無駄な投資や機会損失を防ぐ
といった多くのメリットがあります。
まずは、各事業の「業界の魅力度」と「業界内での自社の地位」を冷静に見直し、ビジネススクリーンを活用してみましょう。それが、持続可能な成長戦略への第一歩になるはずです。