多くの企業が利益向上を追い求める中で、目先の効率化や新規顧客獲得に注力しがちです。しかし、持続的な成長を実現するためには、より本質的な視点が求められます。そこで注目すべきなのが、「サービスプロフィットチェーン(SPC)」というビジネスモデルです。

本稿では、1994年にハーバード・ビジネス・スクールのヘスケット氏らが提唱したSPCの核心的な考え方から、具体的な活用ステップ、そしてビジネスブログ読者向けの応用までを、2つの記事の内容を統合し、図解も交えながら分かりやすく解説します。

サービスプロフィットチェーン(SPC)とは?利益を生む好循環のフレームワーク

サービスプロフィットチェーン(Service-Profit Chain)、通称SPCは、「従業員満足」「顧客満足」「企業利益」という3つの要素が密接に連鎖し、好循環を生み出すというビジネスモデルです。従業員が働きやすい環境で高いモチベーションを維持することで、サービスの質が向上し、それが顧客満足度を高め、最終的に企業の収益増加に繋がるという考え方を基盤としています。

SPCの核となる3つの基本原則

SPCを理解し、自社に取り入れるためには、以下の3つの基本的な考え方を把握することが重要です。

1. 従業員満足度の向上 = サービス品質の向上

顧客がサービスに価値を感じるためには、その品質が不可欠です。そして、サービスの質は、それを 提供する従業員のパフォーマンスに大きく左右されます。従業員が働きやすい環境で、仕事へのモチベーションが高ければ、顧客への対応や提供するサービスの質も自然と向上します。SPCでは、従業員満足度を向上させるための社内投資を、利益向上のための最初の重要なステップと捉えています。

2. 顧客ロイヤリティの向上 = 企業の成長を加速

顧客ロイヤリティとは、顧客が特定の企業やブランドに対して抱く信頼感や愛着のことです。ロイヤリティの高い顧客は、競合他社ではなく自社を選び続け、継続的にサービスを利用してくれるだけでなく、周囲に良い評判を広めてくれる可能性も高くなります。研究によれば、わずか5%の顧客ロイヤリティ向上でも、利益が25%以上増加する可能性があるとされています。つまり、リピーターを増やし、ファンを育成することが、企業の安定的な成長に不可欠なのです。

3. 従業員満足度の向上 = 顧客ロイヤリティの向上

満足度の高い従業員は、顧客に対しても親身で質の高いサービスを提供することができます。その結果、顧客は満足し、企業や従業員への信頼感や愛着を深め、リピート利用へと繋がります。このように、「従業員満足 → サービス品質向上 → 顧客満足 → 顧客ロイヤリティ向上 → 企業利益向上」という一連の流れこそが、SPCの中心的な考え方です。

SPCを実現するための5つの社内施策

SPCの好循環を生み出すためには、まず「社内のサービス品質」を高める必要があります。具体的には、従業員満足度を高めるための以下の5つの施策が重要となります。

  1. 働きやすい職場づくり (Workplace Design):
    安全で快適な労働環境、適切な労働時間、良好な人間関係、心理的な安全性など、従業員が安心して能力を発揮できる基盤を整備します。
    • 施策例: フレックスタイム制度の導入、オフィス環境の改善、メンター制度の導入、ハラスメント防止研修の実施。
  2. 働きがいのある仕事設計 (Job Design):
    従業員が主体的に業務に取り組めるよう、個々の能力や適性に合った役割を与え、明確な目標設定、業務効率化による生産性向上などを推進します。
    • 施策例: 裁量労働制の導入、多能工化、目標管理制度(MBO)の導入、RPAツールの導入。
  3. 採用と育成への投資 (Employee Selection and Development):
    企業の理念や求めるスキルに合致した人材を採用し、入社後の継続的なスキルアップを支援します。
    • 施策例: 採用基準の見直し、OJT制度の充実、社内研修プログラムの開発、外部セミナー参加支援制度の導入。
  4. 適切な報酬と評価 (Employee Rewards and Recognition):
    従業員の貢献や成果を正当に評価し、適切な報酬(金銭的・非金銭的)を提供することで、モチベーションとエンゲージメントを高めます。
    • 施策例: 業績連動型賞与制度の導入、インセンティブ制度の設計、社員表彰制度の導入、サンクスカード制度の導入。
  5. 顧客サービスを支援するツールの活用 (Tools for Serving Customers):
    業務効率化、情報共有の円滑化、顧客対応の質向上に繋がるデジタルツールなどを積極的に導入します。
    • 施策例: CRM(顧客関係管理)システムの導入、SFA(営業支援)ツールの導入、チャットボットの導入、FAQシステムの整備。

次のステップ:顧客サービスの質を高める

従業員満足という強固な土台が築かれたら、次は顧客に提供するサービスそのものの品質向上に取り組みます。

  1. サービスコンセプトの明確化・見直し:
    「誰に」「どのような価値を提供するのか」を明確にし、顧客にとっての独自の魅力(付加価値)を際立たせます。
    • 顧客ニーズに基づいたサービス設計:
      顧客の声に耳を傾け、アンケート調査や市場調査、従業員からのフィードバックなどを活用し、顧客の期待を超えるサービスを設計・提供します。

    最終的な目標:企業の持続的な成長と収益性向上

    SPCは、単なる理論やフレームワークではなく、企業の持続的な成長と収益性向上を実現するための実践的なアプローチです。従業員と顧客の満足度を同時に高めることで、長期的な視点での利益確保が可能になります。

    SPC導入を検討するためのテンプレートツール

    SPCの考え方を自社に取り入れるための第一歩として、以下の簡単なテンプレートをご活用ください。

    評価項目現状の評価 (1:低い - 5:高い)課題改善策のアイデア優先度 (高・中・低)担当部署目標とする状態
    従業員満足度例:労働時間管理の見直し、コミュニケーション活性化施策の導入
    職場のデザイン例:オフィス環境の改善、休憩スペースの整備
    仕事のデザイン例:裁量権の拡大、目標設定プロセスの見直し
    従業員の採用と育成例:採用基準の明確化、研修プログラムの拡充
    従業員の報酬と表彰例:評価制度の見直し、インセンティブ制度の導入
    顧客サービスを支援するツール例:CRMシステムの導入検討、FAQコンテンツの充実
    サービスクオリティ例:サービス提供プロセスの標準化、従業員への研修
    顧客満足度例:顧客アンケートの実施、顧客フィードバックの分析
    顧客ロイヤリティ例:ロイヤリティプログラムの導入、顧客とのエンゲージメント強化策の実施

    このテンプレートを活用し、自社の現状を分析し、具体的な改善策を検討することで、SPCの導入に向けた第一歩を踏み出すことができます。

    まとめ

    サービスプロフィットチェーンは、従業員と顧客双方の満足度を高めることで、企業の持続的な成長と収益性向上を実現する強力なフレームワークです。目先の利益にとらわれず、従業員への投資を起点とした好循環を生み出すことで、真の顧客ロイヤリティを獲得し、競争優位性を確立することができます。本稿で紹介した考え方やステップ、そしてテンプレートツールを参考に、ぜひSPCの導入を検討してみてください。