
現代のビジネスでは「売上」や「利益」ばかりが注目されがちですが、真に持続的な成長を目指す企業にとって重要なのは、“従業員と顧客の満足度”です。
この観点から注目されているのが、**サービスプロフィットチェーン(SPC)**というフレームワーク。従業員満足→顧客満足→企業利益という正の連鎖を生み出す考え方です。
SPCとは?従業員満足から利益を生む好循環モデル
サービスプロフィットチェーン(SPC)は、1994年にハーバード・ビジネス・スクールの教授陣により提唱された経営モデルです。
このモデルの核心は、次のような連鎖にあります。
従業員満足 → サービス品質向上 → 顧客満足 → 顧客ロイヤリティ → 利益成長
このプロセスにおいて、企業は「従業員への投資」を最初の出発点とし、そこから生まれる価値の循環で成果を上げていきます。
図解:サービスプロフィットチェーンの構造
従業員満足の向上
↓
サービス品質の向上
↓
顧客満足度の向上
↓
顧客ロイヤリティの強化
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収益性と企業成長の実現
なぜ今SPCが注目されているのか?
以下のような理由で、企業の戦略においてSPCの重要性が高まっています。
1. 労働環境の変化
リモートワークや多様な働き方が広がる中、従業員のエンゲージメントが企業成果に直結しやすくなっています。
2. 顧客行動の変化
SNSやレビューサイトの影響で、顧客体験が直接ブランドイメージや売上に影響する時代になりました。
3. 長期的な成長戦略の必要性
短期的な利益追求よりも、信頼関係を重視した中長期的な収益モデルの構築が求められています。
SPC実現に向けた5つの施策
SPCを機能させるには、従業員満足を高めるための社内施策が重要です。
施策カテゴリ | 概要 | 具体例 |
---|---|---|
働きやすい職場設計 | 快適・安全な職場環境を整える | フレックス制度、ハラスメント対策 |
仕事のデザイン | やりがいのある業務設計 | 裁量労働制、目標管理制度 |
採用・育成 | 適材適所の採用と継続的な育成 | 研修制度、OJT、外部セミナー |
報酬と評価 | 正当な評価と報酬制度 | 業績連動賞与、表彰制度 |
顧客対応ツール | 顧客サービスを支援する仕組み | CRM/SFA導入、FAQ整備 |
SPC導入ステップ:具体的なアクションはこれ
SPCを実行に移すには、段階的な取り組みが必要です。
ステップ1:従業員満足度の現状把握
・アンケートやヒアリングを通じて課題を可視化
・部門別、属性別に分析し、優先度をつける
ステップ2:施策の設計と導入
・短期施策(制度変更、環境改善)と長期施策(教育、評価制度見直し)を併用
・従業員参加型の施策設計が効果的
ステップ3:サービス品質の向上
・従業員満足の高い環境でこそ、質の高い顧客対応が可能に
・サービス内容を明確化し、改善サイクルを回す
ステップ4:顧客満足・ロイヤリティの測定
・NPS(ネットプロモータースコア)やリピート率を指標化
・クレームやフィードバックを機会と捉える
SPC導入の効果:企業事例に学ぶ
以下のような企業は、SPC的な発想を取り入れることで成功を収めています。
スターバックス
・従業員教育に多大な投資を行い、サービス品質を高水準に維持
・「サードプレイス」という独自の顧客体験を提供し、ロイヤル顧客を多数育成
ザッポス(Zappos)
・カスタマーサービスを従業員に完全に任せる文化を形成
・顧客と長期的な関係性を構築することで、強いリピート顧客を獲得
SPC診断テンプレート(簡易)
自社にSPCを取り入れる際に活用できる評価フォーマットを一部紹介します。
評価項目 | 現状 (1〜5) | 課題 | 優先度 | 担当部署 |
---|---|---|---|---|
従業員満足度 | 3 | 残業多・評価制度に不満 | 高 | 人事 |
報酬制度 | 2 | 成果と報酬が連動していない | 中 | 総務 |
顧客満足度 | 4 | 問い合わせ対応が遅い | 高 | カスタマーサポート |
サービスの質 | 3 | 担当者によって差がある | 高 | 営業 |
まとめ:人を起点に利益を生み出す経営を
SPCは、短期的な利益を追い求めるのではなく、**「人を大切にすることが最も持続可能な利益創出の道である」**という考えに基づいた経営戦略です。
自社の現場・従業員・顧客に向き合い、長期視点で「満足の連鎖」を作ることが、これからの企業にとっての最大の競争力となるでしょう。