
■ はじめに:返済負担に苦しむ企業は多い
売上が減少しても返済は止まりません。
資金繰りが厳しくなった段階でも、
「銀行に相談しづらい」「どう説明していいか分からない」
という理由で放置されるケースが非常に多いです。
しかし実務では――
返済が厳しくなる前に相談した企業の方が、
再建は圧倒的に成功しやすい。
これが金融支援の現場での共通認識です。
そのために不可欠なのが、
返済条件の見直し=金融調整です。
■ そもそも「金融調整」とは?
金融調整とは、借入返済の負担を軽減し、
会社が立て直しに集中できるようにするための支援です。
内容は大きく以下の3つに分類できます。
① 条件変更(リスケジュール)
返済額を一時的に軽減する方法。
例:
- 元金返済を半年〜1年止める(利息のみ)
- 毎月返済額を半分にする
- 長期に組み替えて月額返済を減らす
「返済負担を下げて事業再建に必要な資金を会社に残す」ための調整。
② 追加融資(つなぎ資金)
リスケと同時に運転資金を確保するケースも多い。
特に以下の場面で必要になります。
- リスケ開始直後でキャッシュが不足する
- 仕入先の支払いが先行する
- 改善策に初期投資が必要
- 補助金の自己負担分が必要
実務では、
「リスケ+つなぎ融資」
のセット支援が最も成功率が高いです。
③ 複数金融機関との調整(メイン・サブ銀行の足並み揃え)
借入先が複数ある企業は、
・メイン銀行
・サブ銀行
で返済条件が異なり、調整が難航することがあります。
405事業では、
中小企業活性化協議会が中立的立場で指導し、
全ての銀行の足並みを揃える調整を行います。
■ なぜ金融調整が必要なのか?
理由は明確です。
① 返済のために現金がなくなると倒産する
黒字でも資金繰りが詰まれば倒産します。
返済負担の軽減は“資金ショート防止”そのもの。
② 改善に投資できなくなる
返済で資金が吸われると、
・商品改善
・設備投資
・販路開拓
など未来への投資ができなくなります。
③ 金融機関は「早い相談」を評価する
返済遅延後の相談は“事後報告”になり、
銀行の印象が悪くなる。
逆に、
「まだ遅れていない段階の相談」は高評価。
■ 金融調整を成功させるための3つの準備
① 正確な資金繰り表
金融機関が一番気にするのは「返済能力」。
したがって、
・資金繰りがいつ苦しくなるか
・どれくらいの調整が必要か
を数字で示す必要があります。
② 経営改善計画(再建シナリオ)
金融調整は「お願い」では通りません。
数字と根拠のある再建計画が必要。
- 粗利改善策
- コスト削減策
- 経営体制の見直し
- 設備投資計画
- 月次モニタリング体制
特に、405事業では専門家(認定支援機関)とともに作成するため、
説得力が非常に高くなります。
③ 経営姿勢(隠し事をしない)
金融調整の最大の失敗原因は
「悪い数字を隠すこと」。
銀行が最も評価するのは、
“誠実で正直な情報開示”。
■ 金融調整の実務フロー(405事業の場合)
1️⃣ 現状分析(デューデリ)
財務内容・資金繰り・業務構造を徹底分析。
2️⃣ 改善策の立案
売上構造・粗利改善・コスト削減を数値化。
3️⃣ 資金繰りシミュレーション
改善前後のキャッシュフローを比較。
4️⃣ 経営改善計画の作成
3〜5年の返済計画・未来の資金繰りを可視化。
5️⃣ 金融機関との協議
認定支援機関・協議会が立ち会い、交渉を支援。
6️⃣ 返済条件の合意形成
各金融機関の足並みを揃える。
7️⃣ モニタリング(伴走支援)
計画通り改善しているか毎月チェック。
■ 金融機関が判断するポイント
銀行は「甘い計画」が嫌いではありません。
「根拠のない計画」が嫌いなのです。
特に確認されるポイントは以下。
- 回収・支払サイトに無理がないか
- 販売計画に根拠があるか
- 粗利改善の見込みが明確か
- コスト削減の実行可能性
- 実績管理の継続性
- 経営者の姿勢(情報開示の真摯さ)
💬 金融調整は“信頼の再構築”が目的。
数字は後からついてきます。
■ 金融調整を嫌がる銀行は実際には少ない
金融支援の現場では次の傾向がはっきりしています。
✔ 早期相談した企業 → 支援に積極的
✔ 事後報告した企業 → 支援に消極的
銀行にとって「再建可能な企業への支援」は
事業性評価の向上につながるため、
本質的には歓迎されます。
■ 経営者がやってはいけないNG行動
- 返済遅れを黙って放置する
- 他行だけ返済する(不公平)
- 粉飾・ごまかし
- 私的流用
- 実績報告を怠る
これらは信用失墜となり、
金融調整が極めて難しくなります。
■ まとめ:金融調整は“再建の扉”
金融調整は、
逃げではなく
「再建のための前向きな行動」 です。
返済負担を整え、
経営改善に集中する土台ができれば、
企業は大きく息を吹き返します。
- 適切な返済負担
- 実現可能な改善計画
- 専門家と金融機関の協働
- 月次の継続モニタリング
この4つが揃った企業は、
1年後に財務体質が劇的に改善します。
💬 借入は“重荷”ではなく“企業を成長させる資源”。
金融調整はその資源を正しく使うための技術です。


