はじめに

最低賃金の上昇はもはや“国の方針”であり、避けられない時代の流れです。
中小建設業にとっては、職人・社員・外注先の人件費が同時に上昇し、**「働いても利益が残らない構造」**に陥る危険があります。

しかし、「賃金上昇=悪」ではありません。
むしろ、賃上げを契機に経営体質を強化するチャンスでもあります。
本記事では、賃金上昇時代に利益を守るための3つの経営戦略を紹介します。


1. コストカットではなく「粗利改善」へ視点を変える

賃上げ対応というと、まず「経費削減」を思い浮かべがちです。
しかし、過度なコストカットは品質低下や人材流出を招き、逆効果となります。

経営者が今注目すべきは、「粗利(=付加価値)」の最大化です。

指標改善の方向性
粗利 = 売上 − 直接原価原価を抑えるだけでなく、「価格」「付加価値」を上げる
粗利率 = 粗利 ÷ 売上「高付加価値案件」を増やすことで上昇

たとえば、安値競争から脱却し、「高品質施工」「短納期」「安全対応」などの価値を明確化すれば、顧客に選ばれながら単価を上げられます。


2. 「一人当たり売上高」で見る生産性経営

人件費が上がる時代には、生産性=一人あたりの付加価値が経営のカギになります。

労働生産性 = 付加価値(粗利) ÷ 従業員数

この指標を毎月チェックし、社員1人あたりの粗利を前年より5〜10%上げることを目標にします。

📊 改善策の例
・1現場あたりの段取り時間を短縮
・残業時間削減によるムダな労務費抑制
・多能工育成で人の稼働効率を上げる
・クラウド共有で報告・連絡の重複削減

これにより、同じ人員でもより多くの利益を生む組織に変わります。


3. 「単価アップ」と「付加価値化」の両輪戦略

最低賃金が上がるとき、真っ先に見直すべきは販売価格=工事単価です。
単価を上げるには、「顧客が納得する理由(=価値)」を提示する必要があります。

価値の作り方

顧客に見える価値具体策
品質の高さ現場チェック体制、施工写真の共有
納期遵守工程管理の見える化、トラブル対応力
アフターフォロー保守点検・保証書の整備
安全・法令遵守安全教育・労災ゼロ体制

「この会社なら安心」と思われれば、5〜10%の単価アップは十分に可能です。


図解:賃金上昇時代の利益確保の構造

[従来構造]
賃上げ → 原価上昇 → 利益減少

[改革構造]
賃上げ → 付加価値アップ → 単価上昇・生産性改善 → 利益維持・拡大

4. 「人に投資する経営」への転換

人件費を“コスト”ではなく“投資”と捉えることが重要です。
賃上げに見合う成果を出せるよう、教育・評価・仕組みを整えることで、社員が「生産性を上げる行動」を自然に取るようになります。

💬 実践例:
・若手へのOJT+現場動画マニュアル化
・資格取得支援(施工管理技士など)
・評価制度を「技能×改善提案」で見える化

これにより、“賃上げがモチベーション”ではなく“スキル向上が報酬に繋がる”文化が生まれます。


5. 補助金・助成金で賃上げ原資を確保

賃金上昇への対応には、国や自治体の支援策も活用できます。

制度名対応内容
業務改善助成金(厚労省)賃上げ+生産性向上設備の導入費を助成(上限600万円)
人材開発支援助成金教育・資格取得費用を補助
省力化投資補助金生産性向上を目的とした設備導入に2/3補助

「人への投資」と「仕組み投資」を同時に行えば、長期的に利益体質を作れます。


チェックリスト:賃金上昇対応の5項目

  1. 一人あたり売上高・粗利を毎月把握しているか?
  2. 単価見直しを定期的に行っているか?
  3. 教育・評価制度を整備しているか?
  4. 生産性向上のためのIT・設備投資を実施しているか?
  5. 補助金・助成金の活用を検討しているか?

まとめ

最低賃金の上昇は止められません。
しかし、**「付加価値を上げる」「生産性を上げる」「人に投資する」**という3つの戦略を取れば、
賃上げはむしろ企業を強くします。

「人件費を削る経営」から「人が成長して利益を生む経営」へ。
それこそが、2025年以降の中小建設業が生き残るための“利益確保の新常識”です。