
はじめに
「頑張って現場を回しても利益が残らない」――そんな悩みを抱える中小建設業は少なくありません。
原因の多くは、見積もり段階での原価のズレにあります。
受注時点で赤字がほぼ確定している工事も珍しくなく、「利益は現場でつくる」のではなく「見積で決まる」と言われるほどです。
今回は、赤字工事を防ぐために、経営者が押さえるべき「見積もり精度の改善策」を解説します。
1. 見積もり精度が経営を左右する理由
建設業では、見積もり段階で売上・原価・利益がほぼ確定します。
材料費・労務費・外注費・経費のいずれかを過小に見積もると、現場でいくら努力しても挽回できません。
特に以下のようなパターンが危険です:
- 以前の単価を流用しており、最新の資材価格が反映されていない
- 職人・外注の実際の稼働時間を過小評価している
- 安全対策や廃棄費用などの間接コストを見落としている
このような小さなズレが積み重なり、1件あたりの利益を数十万円単位で減らしているのです。
2. 原価構成を正確に把握する
まずは、自社の工事の原価構成を分解しましょう。
原価項目 | 内容 | 典型的な割合 |
---|---|---|
材料費 | 資材・機材・燃料など | 35〜40% |
労務費 | 社員・職人の人件費 | 35〜40% |
外注費 | 下請・専門工事 | 10〜15% |
経費 | 運搬・安全・廃材処理など | 10%前後 |
このうち、「労務費」と「材料費」は変動が激しく、見積誤差の原因になりやすい項目です。
最新データを常に更新する仕組みが、精度向上の第一歩です。
3. 歩掛(ぶがかり)を自社データで管理する
「歩掛」とは、ある作業を行うために必要な労務時間・材料量などの基準値です。
公共工事では国交省の標準歩掛が参考になりますが、民間工事や自社現場では実態が異なることも多いです。
💡 例:
公共歩掛:配管工事 1mあたり 1.2人×時間
自社実績:同条件で 1.6人×時間 → 実際は労務費が33%多い
この差を放置すると、見積もりの段階で利益が消えてしまいます。
したがって、自社実績ベースの歩掛データベース化が極めて重要です。
4. 見積書作成プロセスを「チーム化」する
見積りは営業・現場・経理が連携して作成することで、精度が上がります。
[営業] ─ 案件ヒアリング・顧客要望整理
↓
[現場] ─ 実行予算・工程・安全コスト確認
↓
[経理] ─ 原価・粗利・キャッシュフロー確認
↓
[経営者] ─ 最終承認と利益率チェック
この流れを「一人の担当者任せ」にせず、複数の視点でチェックする仕組みを作りましょう。
5. 利益率の“目安”を設定する
利益率の基準を曖昧にしている企業も多いですが、少なくとも以下のような社内基準を定めるべきです。
工事種別 | 目標粗利率(目安) |
---|---|
元請工事 | 25〜30% |
下請工事 | 15〜20% |
小規模リフォーム | 30〜35% |
見積書を作成した段階で、この基準に届かない場合は受注前に再検討します。
「薄利多売」ではなく、「適正利益の確保」が経営の基本です。
図解:見積精度が利益を決める構造
[見積精度の低下]
↓
原価誤差(材料費・労務費)
↓
利益率の低下
↓
資金繰り悪化・再投資できない
↓
競争力低下
6. ITと補助金を活用して効率化
見積作業は属人的になりやすいため、クラウド見積ソフトや原価管理ツールの導入も有効です。
こうしたソフトは補助金(IT導入補助金)を使って導入でき、データ連携により「見積と実績の差異分析」も容易になります。
📊 メリット:
・見積作成時間を1/2に短縮
・見積書・実行予算書の自動連携
・過去案件との比較で精度向上
チェックリスト:見積もり改善のための5項目
- 最新の資材・人件費単価を反映しているか?
- 自社実績に基づく歩掛を持っているか?
- 見積作成を営業・現場・経理で共有しているか?
- 目標粗利率を明確に設定しているか?
- ITツールや補助金を活用しているか?
まとめ
赤字工事の多くは、現場ではなく見積段階で生まれます。
「感覚で積算」から「データで見積」へと発想を転換することで、安定した利益体質に変わります。
特に、見積精度を高めることは資金繰り改善・賃上げ原資確保にも直結します。